日が落ちて一時間ほどが経っていた。交差点の近くにあるバス停は、車のヘッドライトのおかげで暗くはないが、かと言って駅前のような明るさはない。
私は両手に買い物袋を持って、バスを待っていた。ほかにもバスを待つ人影は五人ほど。
ベンチには小柄なおばあちゃんが手押し車に片手を掛けてちんまりと座っていた。お疲れだろうか、帽子をかぶった頭はわずかに前に傾いでいる。
ふいに、おばあちゃんが何か言葉を発した。私に話しかけられたのかと思い顔を上げたが、実際は私の隣にいる眼鏡の女性がターゲットだったらしい。女性が聞き返すとおばあちゃんは繰り返す。
「40番のバスを待っているのだけれど、もう行ったんやろうか」
そのバス停はいくつかの路線が通る場所にあるからか、近いうちに来る5本ほどのバスの運行状況がディスプレイで見られるようになっていたが、おばあちゃんの目では見えなかったのだろう。話しかけられた女性はディスプレイを見上げたし、私もつられてディスプレイを見た。40番は表示されていなかった。
もう行ったみたいですねえ、と眼鏡の女性が答えると、おばあちゃんは「(40番が来たところを)見逃したんだろうね…」と力なく答えた。女性がスマートフォンで次に40番が来る時間を調べている。
「次に(40番のバスが)来るのは15分後ですね…」
きっとここまで15分ぐらいは待っていたのだろうに、この寒い中、この小柄なおばあちゃんが更に15分待つのかと私は傍で聞いているだけなのに暗澹たる気持ちになった。
ここで私の乗るバスが来てしまい、私は暗い気持ちを抱えたままバスに乗り込むしかなかったのだが、何か出来ることはなかったのだろうかとしばらく気持ちが落ち込んだままだった。