私はあなたのお母さんの結婚式でセクハラされて、死にたくなった人間です。あなたが生まれてくる1年半前、ウエディングドレス姿のお母さんに指名されて、沢山の人の前で下ネタを披露しました。あなたはまだ知らないかもしれないけど、人間の尊厳、人間が人間でいるために大切なもの、それが壊れてしまったんです。今の私は人間の形をした人間じゃないもの、あなたのことを見ても1ミリも可愛いと思えない醜い生きものなんだよ。
もうこんな悔しい思いはしたくないから、セクハラされたのは隙があったからって言われないようにダイエットもしたし、整形もしました。当時付き合いたてだった恋人のこと、急に気持ち悪くなって別れたのもこの時だった。
会社に来たあなたはそんな犠牲に気づかず、泣いたり笑ったりキャッキャと喜んだりしていて、本当に尊い。初めて見るもの、初めて来る場所、初めて会う人、まだ生まれて数ヶ月のその目で焼き付けていた。生きるということを満喫していて、非常に結構なことだと思ったよ。
お母さん、4月から職場復帰するんだってね。きっとあなたは幾度となく熱を出し、その度に退勤するお母さんを私は見送るんだろうね。そして夜、私は会社に残って残業をする。私は結婚も結婚式も出産も、きっともう出来ない、そのことをひどく自覚して何度も自分に刻み付ける。まるで自傷行為みたいだね。ひとりになった夜のオフィスで、きっと私は死にたくなるんだよ。
大人になったらその子のままと同じ性格になるっしょ。