2019-08-06

癌でいなくなってしまった女の子の話

 二年くらい前のことなんだけど、仕事上の知人が癌になった。

 きれいな女の子で、割と俺とも親しく話をすることが多かった。

 冬のある日、上司が俺を懇談室に呼んだ。


彼女癌になったらしいよ」と上司はそう言った。

 療養生活に入るとのことだった。


 俺はその女の子とそれ以来会っていない。


 それから、つい先日のこと、その彼女が夢に現れた。

 俺がどこかのコンビニへと夜に訪れると、その女の子レジの脇に立っているのだ。俺は思わずしかけた。

 病気の方はどうなったの、大丈夫なの。

 彼女は満面の笑みで答えた。癌は寛解しました。大丈夫です。もう平気なんです。


 そんな具合に夢から覚めた。

 不思議なことに、目覚めた直後にはその夢のことを忘れていた。慌ただしく仕事に行く支度をして、自転車で駅へと向かった。


 その夢のことを思い出したのは、夕方御飯時になって近所の中華料理屋に行った帰りだった。

 そう言えば、あの女の子最近会ったような気がする、そんな間抜け感触が頭の中にあった。

 暫く考えて、その感触が夢の中の出来事であることに気付いた。


 世界が捻じ曲がる感覚があった。


 夕焼け世界が少しだけぐにゃりと曲がった。

 頭の中が空っぽになっていくような感覚があった。

 道端に転がっている蝉の死骸のことが、何故か妙に意識された。


 つら、と思った。

 つら。どーしよ。うーん。

 そんな気持ちだった。


 そのまま職場に戻った。

 その日の、退勤までの仕事は何故なのかとてつもなく捗った。


     ◇


 時々、その女の子と似た人影を見つけると、ひょっとして彼女ではないかと目で追ってしまう。

 でも、それは彼女ではない。そのことに気付くと、何やら残念なような、あるいは安心したような気持ちになってしまう。


 さて、今日仕事も頑張ろう。

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