冬のある日、上司が俺を懇談室に呼んだ。
療養生活に入るとのことだった。
俺はその女の子とそれ以来会っていない。
俺がどこかのコンビニへと夜に訪れると、その女の子がレジの脇に立っているのだ。俺は思わず話しかけた。
彼女は満面の笑みで答えた。癌は寛解しました。大丈夫です。もう平気なんです。
そんな具合に夢から覚めた。
不思議なことに、目覚めた直後にはその夢のことを忘れていた。慌ただしく仕事に行く支度をして、自転車で駅へと向かった。
その夢のことを思い出したのは、夕方、御飯時になって近所の中華料理屋に行った帰りだった。
そう言えば、あの女の子と最近会ったような気がする、そんな間抜けた感触が頭の中にあった。
道端に転がっている蝉の死骸のことが、何故か妙に意識された。
つら、と思った。
つら。どーしよ。うーん。
そんな気持ちだった。
そのまま職場に戻った。
その日の、退勤までの仕事は何故なのかとてつもなく捗った。
◇
時々、その女の子と似た人影を見つけると、ひょっとして彼女ではないかと目で追ってしまう。
でも、それは彼女ではない。そのことに気付くと、何やら残念なような、あるいは安心したような気持ちになってしまう。
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