脈がだんだん弱くなり呼吸も浅くなる。
まわりには家族以外に医者と看護師がいて、5分後の世界を見ている。
俺は葬儀屋との連絡をして医者は死亡の診断書の時間を入れる。看護師は遺体の処理をして着替えをおこなう。
母親は親類縁者への連絡を行う。
それぞれの5分後の世界が始まる。
父親にはもう5分の猶予もない。脈がなくなっていくその姿を見ながらやはりまだ父親が死ぬという現実が理解できずにいた。
世界のだれよりも強く男らしく筋肉ムキムキだった父親。仕事で大怪我したときも入院はせず通院だけで過ごした。
そんな父親があと五分もあればこの世から意識がなくなってしまう。そんな未来が本当にくるとは誰が予想できただろうか。
やがて心電図がフラットになって医者が死亡を宣言する。俺たちの5分後が始まる。
当日はもう意思の疎通ができなくて最後の一日はどういう気持ちで過ごしたのか俺らにはわからない。
その日は一日、なるべく手を繋ぐようにしていた。
あれから3年が経つけどテレビの前に焼酎片手にゴロゴロしてる父親が居てる気がする。
俺にはまだ時間があって最後の5分を迎えるのはまだ少し先だと思う。
3年を迎えるにあたり父親が背負ってきたもの目指してたこと歩んできた道をもう一度思い出して父親が好きだった焼酎を一杯、飲み干したいと思う。
乾杯。