私の両親は私が小学校に上がる前に離婚した。私は母について行き、小学校低学年の時に新しい父が、その1年後に弟が一人できた。
母は恐らく、私が惨めな思いをしないように色々と気を配ったことだろう。私自身も、子供心に「自分が惨めがると母が悲しむ」と感じとっていたかもしれない。
ともあれ、私は父なし児といじめられる事も、経済的に困る事も、新しい家族に意地悪をされるような事もなく、自分が可哀想だとは本当に思わなかった。
だが、母方の祖父母は私を哀れんだ。そのことを隠さず口にした。
弟は新しい父の方の家から遺産を相続できるが、私にはそれが無いからと、私を祖父母の家の養子にしようとまで言った。
当時の私はそれを聞いて愕然とした。母や弟と離れて祖父母の家の子になるなんて考えられなかった。
私の何がそんなに可哀想なのか、全然理解できなかった。
後から思えば、祖父母は親の離婚が私の結婚の障害となったり、前の父が再婚してそちらの家の遺産争いに巻き込まれたりするのを危惧したのだろう。養子と言うのも、祖父母の生まれ育った土地と時代にあっては、さほど珍しくなかったのかもしれない。
幸いにも今に至るまで、私は両親の離婚を理由に直接嫌な思いをしたことは一度もない。影で何か言われてはいるかもしれないが、少なくとも人々は私にそれを感づかせないようにしてくれてはいるし、それならば何もないのと変わらない。
しかし、私が可哀想という前提に基づいた祖父母の干渉には、たびたび嫌な思いをした。
また、親が離婚していると性格が歪むというような言葉に、ネット上などで出会うとイライラした。
やがてそのうち、自分の中の様々な欠点は、親の離婚のせいなのだろうかと悩むようになった。
両親が離婚していない人は、自分に欠点があっても、それが親の離婚のせいかどうか悩む事はないだろう。
そういう言葉をどこかで見かけてもイライラする事もないし、家庭環境に対する周囲の気遣いが逆に不愉快だという経験もしないだろう(少なくとも離婚という点においては)。
幼い頃は逃げおおせたと思った呪い。「親が離婚していると不幸になる」という呪いが、大人になった今、じわじわと私に追い付き、絡みついてくる。