2021-11-12

肩甲骨の逆襲

私は肩甲骨

背中にある骨で、羽のような形をしている。割と大切な骨だと思っている。

最近その私を剥がそうとする輩がいる。肩甲骨剥がしと称して、私を剥がそうとするのだ。

今も整体師だか何だかしらない男が、私を思いっきり剥がそうとする。

「これが効くんですよ~」

などと言いながら引っ張ってくる。私は必死で剥がされまいと頑張る。

そうだ。全国の肩甲骨はこうやっていつも剥がされまいと必死努力をしているのだ。

ただ時々気を抜いた瞬間にもっていかれる時がある。

「あっ!」

やってしまった。少し気が緩んだ瞬間、私はその整体師にもっていかれてしまった。

私の母体である男性は痛い痛いと叫ぶ。右手ブランブランと揺れている。そりゃそうだ、肩甲骨剥がしたんだから

だが私の方は問題ない。私は骨なので、折れない限り痛みなどは感じない。

ただ問題母体の男だ。このままでは危ない。

「お客さん、大丈夫ですか!?

大丈夫ですか、ではない。お前がやったんだろう?お前が私を剥がしたんだろう?犯人被害者心配してどうする。

まあしかし、このままでは私も危ないかもしれない。だから私はギュッ母体の体へ戻ることにした。

「あ、手が動く!」

母体の男は生気を取り戻したようだ。危ないところだった。

「そ、そうでしょう?これが効くんですよ~」

なんだこいつは。私がもとに戻らなければ一大事だったぞ。これだから整骨院とやらは信用ならない。

病院を後にした後、私は友人の肩甲骨通信をした。

肩甲骨無線ネットワークで繋がれており、別な母体肩甲骨通信ができるのだ。

「さっき、剥がされてしまった。うかつだった」

「まじで?俺もだよ。最近新しい肩甲骨剥がしがあるらしくてさ。You Tubeでも拡散されてるし、困ったもんだよ。

俺も危険だってYou Tube通報はしてるんだけど、なかなか削除されなくてさ」

あいつらは、『肩甲骨を剥がすというのは比喩だ。本当に剥がすわけではない』と主張しているが、比喩であるなら剥がすという言葉は使うべきではない。

それに実際私は剥がされたのだ。これは肩甲骨に対する虐待いじめ犯罪ではないのか。私は徹底抗戦するつもりだ」

「いやいや、やめとけ。整体師は筋力あるからな。肩甲骨だけじゃ戦えないよ」

「ではどうしろと?」

尾骨と組む」

「できるのか?」

あいつら、尻尾じゃないのに『尾』なんて名前を付けられて不満を持ってるからな」

「なるほど」

「あと、恥骨。恥ずかしいなんて名前を付けられて、かなり怒っている」

「同情を禁じ得ないな」

「あとは脊髄あたりが味方になってくれたら勝てる見込みはあるんだがな」

脊髄あいつは無理だろう」

「だよな、あいつは脳とも手を組んでるから。仕方ない、肩甲骨尾骨恥骨整体師と戦うぞ」

「勝てるのかな。不安だ」

決戦の日。

全国の肩甲骨尾骨恥骨同盟を組んだ。

そして私はあの整体師がいる整骨院にやってきた。

整体師がいつものセリフを吐く。

「さーて、では肩甲骨剥がしますか」

なにがさーて、だ。今からお前は地獄行きだ。

さあ、尾骨、頼んだ。

「あれ、お客さん、なんかあなたのお尻から出てますよ」

「えっ。あっ尻尾が生えてる!?

尾骨のやつ、やりやがった。尾骨尾骨を呼ばれているから、そんなに言うなら自ら尻尾になってやるよ、ということか。

「せ、先生あなた尻尾、生えてます!?

そうだ、これは全国で同時展開している。一斉にやってこそ効果がある。

さあ次は恥骨だ。

「あれ、なんだか、腰回りが……尖ってきてる!」

いつも恥ずかしいと言われていた恥骨は、鋭利な骨となり外界へ飛び出した。

なんてスタイリッシュ恥骨。もう恥ずかしいなんて呼ばせない。

よし、最後は私だ。

肥大化して、外へ飛び出してやる。

「せ、背中からなんか出てきた!?は、羽!?羽が生えてきてる!」

「そうだ、羽だよ」

「えっ羽から声が聞こえる!」

「おい、聞こえるか、私は肩甲骨だ。いつも私を剥がそうとしてきただろう。その報いだ。

私は肥大化し、羽に変化した。もうお前らの剥がす肩甲骨はない。私を剥がしてはならない」

「な、なんということだ…」

尻尾が生え、恥骨が尖り、羽が生えた。見ろ、世界中人間が変化しているのだ。

報いだ。勝手尾骨という名前を付け、恥ずかしい呼ばわりし、剥がそうとした罰だ!

もう取り返しはつかない!一生、尻尾と羽を持った生物として生きるんだな!!」

そう、これが新時代の幕開け。鳥人時代の始まりだった。

骨肉を争う地獄が今始まろうとしている。

プロローグ終わり。次回「肩甲骨VS脊髄」)

  • 肩甲骨に「お前は腕だよー 腕の根っこだよ」って 話しながらタッチしてやると 肩こりが楽になる。(筋力が分散されるのは事実)

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