この日一番の爆笑が起きたのは、ネタが全て終わり、フリートークも締めに入った午後8時前だった。
オズワルド、ダンビラムーチョ、ラランド、素敵じゃないか、エバースの5組がそれぞれネタを2周するライブ。ちょうど「M-1」2回戦が終わり、いずれも通過を勝ち取った5組。その勢いをかってか、どのコンビもウケている。ラランドの2周目のネタ「SP」が個人的にはヒットだったが、初見のコンビも含め、じゅうぶん楽しめた。
ところがネタが終わってフリートークに入ると、交流の少ない芸人同士が多かったらしく、ぎこちない時間が進む。オズワルド・伊藤が気合いでMCを回し、ラランド・ニシダが無茶な仕掛けに出てどうにかオチを付けるなど、綱渡りとも言える時間が続く。ちなみに、ニシダが勝負に出た際のサーヤの見守り方、あの満面の笑みがとても良い。根本の部分で価値観を共有している2人なのだなと(当たり前だけれど)思わされる。
ネタパートに比べると、ややパワーダウンして幕を下ろすかに思えたその時、そうした空気を察した演者が最後の大勝負に出る。オズワルド・伊藤が素敵じゃないかにラップバトルを仕掛けたのである。ビートを買って出たのはダンビラムーチョ・大原。床に寝そべった不思議な態勢で、ボイパとも言えないような、独特なビートを歌い上げる。この時点ではほとんどの人が何の曲か気付いていない。
そして伊藤がたどたどしくもフリースタイルをかます。ディスの内容をおおざっぱに言えば「『素敵じゃないか』のどこが素敵なんだ?言ってみろよ!」という王道な内容だ。そして攻守が移ろうとしたその瞬間。寝そべっていた大原がビートに乗ったまま、「知らざあ言って聞かせやSHOW」と自ら朗々と歌いあげたのである。
割れんばかりの拍手と笑いが生まれたこの瞬間はいくつもの層から成り立っている。まず、流れは仕掛けたのは伊藤と大原だろう。なぜなら伊藤のディスが「知らざあ言ってきかせやSHOW」というアンサーとかみ合っていないと成立しないからだ。もちろん、「水曜日のダウンタウン」でもおなじみ、バラエティーの王道「お前が歌うんかい!」の構図にもばちっとはまっている。
そしてこの「知らざあ言って聞かせやSHOW」は、TOCONA-Xという愛知出身の伝説的なラッパーによる、いわゆるヒップホップアンセムの一つだ。ラップバトルの際にイントロがかかるだけで聴衆が沸き立つような名曲はいくつかあるけれど、その代表曲と言っていい。彼が死んで間もなく17年がたつが、ジャンルは変われどフレーズが受け継がれ、彼の死後に生まれたであろう高校生の観客さえもが声を出して笑っている姿には、感動せずにはいられなかった。
そもそも「知らざあ~」というセリフ回しも、歌舞伎の台詞から引用したもの。ジャンルを流転しながら、その言葉や「いき」の精神が受け継がれる現場の最新形を見た気がした。