2020-05-11

どんどん痴呆が進んで、弱っていく祖父を見るのが辛い。

5年くらい前までの祖父仕事ばっかりで、趣味と言ったらお酒を飲むことくらい。しかも酔うと怒りっぽくなって母と喧嘩ばかりしていたので、私も弟も困らせられた。家事もしないし、家のどこに何があるかもわからない。文句ばっかりで、世間知らず。工場のようなところで働いていて体から機械の油や人間の汗のような匂いがが混じった変な匂いがいつもがしている。いつも私達にお土産だと買ってくるアイスは、なんかバニラの、見たことないような変なやつだった。ガリガリ君がいいって言ってるのに、全然覚えてくれないのだ。仕事のせいでおじいちゃんのくせにムキムキで変だったし、腕相撲全然勝たせてくれなかった。私が初めて料理をして、ハッシュドビーフを作ったときカレーなのにカレーよりうまい、なんだこれって言いながら三皿も食べた。おじいちゃんなのに大食漢なのだ。あとだからカレーじゃなんだって仕事で使う大きなトラックに乗せてやるぞと言われ、連れていってもらえたのは仕事取引先ばかりでそこは小さなわたしにとってはあまりにも退屈だった。そこにはおじいちゃんみたいなおじいちゃんが沢山と愛想の良いお姉さんがちょっといて、仕事に使う変なペンとか、見たこともない変な味の飴とかくれたけど、ほんとはクーピーミルキーがよかったのだ。

 私はいつも、いつもそんなことを言いながら、祖父の後ろについて回った。祖父工場の大きな機械から出る歪んだ音や、鈍い匂いになによりも安心した。3トントラックの窓からながれる、いつもより少し高い景色は本当に綺麗だった。私の体の何倍もあるそんな大きな車を運転して、俺はどこまでも遠くへ行けるんだぞ、というような顔をする祖父はカッコ良かった、私は祖父が大好きだった。

 そんな祖父が、仕事をやめた途端はっきりと呆け始めた。私が大学進学と共に上京するのが決まった頃だったと思う。もともと仕事が全ての人だった。一日中魂が抜けたようにぼんやりとしている。体を動かすこともなくなったので、筋肉は衰えてよぼよぼの普通のおじいちゃんになった。退職と同時に免許を返納したので、もうどこかに連れていってくれることも何かを買ってきてくれることも無い。ただ、お酒の量は増える一方だ。色々なことをすぐに忘れてしまうおじいちゃんは何故だかいつもニコニコとしている。帰省するたびにそんな祖父痴呆ますますひどくなっていく。わたしはそんな祖父を見ているのが辛い。大好きだったおじいちゃんの殻に何か幽霊が入りこんでしまったみたいなの、と小さい私が言う。でも本当に1番辛いのは、それは幽霊でもなんでもなく、ちゃんとあのおじいちゃんであるということなんだ。

 わたしはもう、おじいちゃんに買ってきてもらわなくても自分アイスを選んで買うことができる。今のおじいちゃんより、力だって強いだろう。あのトラックが決してどこまでも行けないことだってもう知っている。わたしはもう、自分ものを選び、食べたいものを食べ、行きたいところへ行ける。でも、何故かあの窓から景色や甘ったるいバニラの味がやっぱり何よりも好きだったような気がするのだ。弱った祖父そばで見守ることもできずに遠いところに来てしまった自分を恨む、1人の部屋で寝むる時、布団に入って、ふと祖父の顔が浮かび、人間ってなんで、"こう"なんだろう、というどうしようもない気持ち眠ることが増えた。こういう人類のサイクルの中で、ぐるぐる、ぐるぐる…目が回ってしまうようだ。わたしもおじいちゃんもその流れに乗ってここからどこへ向かうのだろう。その先が死だけだったら、だけだったら、もうどうしたら良いのかわかんない。息をすることだって忘れてしまいたいよ。

まぁとりあえず、まずは運転免許でも取ろうかな。

 

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