2019-09-13

[] #78-7「夏になればアイスが売れる」

≪ 前

弟がこらちへ向かっているのを、この時の俺は知らない。

知っていたとしても今はそれどころじゃなかった。

「うーん、これは……」

近場に突如現れたライバルアイス売り。

そこで売られているアイスを食べ、俺とカン先輩は頭を抱えていた。

食べすぎでキーンとなっているからだとか、そういう生理現象ではなく、もっと利己的な理由でだ。

「マズいな……このアイス美味い」

キャラメル風味のアイスクリームに、砕いたアーモンドをまぶした一品

夏に食べたいアイスかっていうとそれほどではないが、クオリティでは明らかに差がある。

廉価のジュースを凍らせただけのこちらとは違い、口溶けがよく、でしゃばらない甘さ。

このアーモンドほのか塩味があり、いいアクセントになっている。

「くっそー、洒落臭いことしよってからに」

そりゃあカン先輩のアイスキャンデーの前じゃあ、大体が洒落臭くなるだろう。

とはいえ、凝っているのも確かだ。

カップデザインシンプルながらに洗練されている。

側面には店の名前らしきロゴが描かれているが、これも見事に馴染んでいた。

「あ、あと、チョコナッツ……コーヒーとかもあったかな」

しかも偵察に行ったドッペルが言うには、この他にも色々なフレーバーがあるらしい。

それに対して、こちらは廉価ジュース味とプレーン

キッチンカーの見た目も、あっちのほうが豪華なんだとか。

こうなってくるとライバルというのも、おこがましいレベルだ。

「くっそー、こんなことなら、もっと色んなジュース買っとくんやった」

「どうせ凍らせるだけなのに、数だけ増やしても仕方ないですって」

個人の好みだとかを考慮しても、客観的にみて形勢は不利といえた。

フレーバーを抜きにしても、アイスキャンデーとアイスクリームは別物だ。

しかし、アイスという点では同じ。

それを売るキッチンカーが同じ公園に2台いたとあっては、比べられるのは必然だろう。

そして勝った側は得をし、負けた側は損をしやすい。

どちらが得をするかは明白だ。

手作りアイスクリームって割と面倒ですからね。手間がかかっている方がいいと考える人も多い」

ましてや、こっちのアイスキャンデーは見るからに手抜きなのだから尚更だ。

「くっそー、市販品を使いまわしとるんちゃうんか」

「いや、この味や見た目は手作り特有のものですよ」

そうは言ってみたものの、少し気になるところもあった。

確信はもてないが、どこかで食べたことがある感じもしたんだ。

デジャブってやつだろうか。

形勢が不利なせいで、何か粗を探してやろうと俺は邪推をしているのかもしれない。

そう思ったのも束の間、俺と同じことを感じる人間が他にもいた。

「こ、これ……かか、か、“カラメルコーンアイス”じゃない?」

ドッペルが、そう呟いた。

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん