最近おもしろい傾向がある。インターネットに明るい者ほどインターネットの問題点を認識し、逆に初心者や盲目的信仰者ほどインターネットのすばらしさを謳歌する。
それがもっとも顕著にあらわれているのが、言わずと知れた匿名掲示板2chである。開設当初は不文律というものも出来ておらず、確かに問題点は多々あった。だが、現在ほどひどい状況ではない。なぜならば、当時の主なユーザー層は非常に限定されており、時代背景を考えても比較的専門性の高い知識をもった者のみ書き込むことが出来たからだ。
最近wikipediaを読んで知ったが、2ch創設者のひろゆき氏は2009年にこういった言葉を残したらしい。
00年代前半期には、偏差値とインターネット利用者が比例する構図があったが、PCが安価になり始めた00年代中期頃から、一部の議論好きな人間を除いて馬鹿ばかりになってしまった。
この一文は長年ネット文化に言及している人物らしい、的確な指摘が簡潔になされている。
また、今から10年前にプログラマー兼ライターである掌田津耶乃氏はこのようなコラムを書いたようだ。
「2チャンネル」という最低最悪のサイトがある。(中略) 面白いのは、彼らの多くが「自分は知性があって偉いやつなのだ」と思い込んでいるらしいこと。よくコンピュータ関係で見かけるのだけど、「知識がある」のを「知性がある」と勘違いし、「自分はすぐれている」と錯覚してしまう人は多い。知性は知識+人間性であることに気づかないのだろう。本当に知性ある人は、匿名で他人の悪口をいって喜んだりはしない。
この二人の発言を参考に、現在の2chユーザーを分析すると、質の低い人物がネットで得た知識を自らの知性と勘違いし、高圧的な書き込み繰り返している、ということになる。
これではまだ少々抽象的すぎるので具体例を出したいが、そのもっともわかりやすい例が、ニュース速報板と呼ばれる、話題をニュースに限定された2ch内の板であろう。こちらでは、一人が自分の立てたスレッドに外部ニュースサイトよりコピーした記事を貼り付け、それに対して複数のユーザーがコメントを書き込む、というのが基本的な流れである。
その場合、書き込まれるコメントというのは9割以上が批判文である。
一見、この行為自体には問題がないようにみえる。テレビの前でお父さんがニュース番組に対してブツブツと文句を言っているような微笑ましい光景である。
けれど、そこには知性というものが存在しない。
現在、このニュース速報板の大半が10代、大学生、ニート、フリーターのユーザーで占められていることは書き込まれる時間帯や内容から疑いの余地がない。例外を認めながらも、社会経験や学力の低い者たちが多い。
確かにネットによって多くの有用な知識を得ることができる。社会的地位を得る人はこれらをうまく活用している。だが、ニュース速報板のなかで無意識的にもっとも発言力が高いとされるのが、暇をもてあまし数々のスレッドにより得た雑学やネタを多く理解している者の書き込みである。
その彼らがあらゆる記事に対して斜は構えた発言をし、それを見た同様のユーザーが煽動され同様の発言を繰り返しているのだから始末に負えない。
なぜそういった発言をするのかと言えば、それは彼ら自身が優れていると錯覚しているからに過ぎない。彼らはネットの可能性を信じ、ネットこそが真実であり、ネットを自由に使いこなす自分こそが正しいと思い込んでいるのだ。斜に構えた発言をした方が、玄人っぽくみえる……というのはいったいどこの小学校の文化であろうか。これに該当する人物はもちろん全力で否定するのだろうが。
他にもこの板では二つの類似した物どうしを戦わせるという不毛な争いが“議論”という名の下で真剣に行われている。その代表格といえば、「ゲームハード×ゲームハード」「新OS×旧OS」「サッカー×野球」「文系×理系」だろうか。端から見れば、脱力するくらい低レベルな諍いであるが、これにいい大人が熱中しているというのだから感心する。
また、同様にこういった争いがある。「右翼×左翼」「信者×アンチ」。これは想像力もしくは知能の低い人物が二つの事柄までしか処理できないために起こる。どのような事象にも世界には二通りの立ち位置しか存在しないと決めつけているから、架空の敵を作り出し、特に敵対意識がなかったにもかかわらず、口角泡を飛ばしながら叩き出す。
2ch文化にあまりなじみのない人には実感が湧かないかもしれないが、実は日常的に行われている議論の9割がコレなのである。知らない人は知らないままの方がいい。怖いもので、人は幼稚な環境に身を置くと途端に幼児退行するものなのだから。
たとえ知性の感じられない議論や独自文化であろうと、限られた空間内で楽しんでいる分には私としても文句をつける気はない。けれど、暇人によって書き込まれたスレッドが暇人の運営するブログにコピーペーストされ、多くのネットユーザーに影響を与えているのはいささか看過できない。メディアリテラシーが不十分な人にとっては「2chの意見→多くの人の意見→世間の一般認識」という図式が当然のように成り立つ場合があるからだ。
もちろんこれは2chユーザーの責任ではない。彼らは時間と勘違いによる優越感をもてあまして似非批評家気分に浸っているだけなのだ。その彼らを責めるのはお門違いも甚だしい。
しかし、そういったブログがアクセス数で日本国内トップを独占している事実は、日本のネットユーザーの知的レベルが諸外国と比べて明らかに劣っていると識者に多く指摘されることと無関係ではないだろう。
発言の自由が保障されている日本で、たとえ一般人にまで悪影響を与えるブログだからと言って閉鎖させることはできない。かといって、国民全員にメディアリテラシーを期待するのも不可能だ。
今後、情報化社会はますます加速する。人々の暮らしが便利になっていくなか、有害な情報とどうやって付き合っていくかが当面の課題となってくる。問題提起のみにとどめる無責任な文章で恐縮だが、高度に発達した情報技術のなかで社会システムはどのように機能していくのか見守っていきたい。
昔はテキサス大の柳沢正史先生(エンドセリンの発見者、ノーベル賞に近い日本人の一人)が実名で書き込んでディスカッションになったり、EBMの大家が「告らん」って名乗っていろい...
ここで一句 「ブーメラン あぁブーメラン ブーメラン」
幼児性もいいものですよ。 人のも、自己のも、そんなに嫌わないであげて下さい。