貸してきたのは、入学してすぐの頃たまたま隣の席だったオタク女子だった。彼女がBLのよさを(なぜか異性愛への謎のこき下ろしを添えつつ)説いてきて、いちいち否定するのも面倒だったのでウンウンと相槌を打っていた。
そんなことを何度か繰り返してると、ある日オタク女子が「こっち側へおいでよ」と一冊のBL小説を差し出してきた。そこまで付き合う気はなかったので「いいよ別に」と最初は断ったのだが、なんやかんやと押し切られ、結局なんだかキラキラした細身の男二人が描かれた表紙の文庫本を読むことになってしまった。
今となってはタイトルも登場人物の名前もろくに覚えていないが、何かのきっかけで男二人が出会ってすれ違いやら何やらを挟みつつ結ばれてハッピーエンドというベタな恋愛だったと思う。
それほど驚きもない中身でただ一つびっくりさせられたのは終盤にガッツリとベッドシーンがあったことだった。それは同性同士だからどうこう、というより高1のオタク女子がなぜこれを読んでたのかという驚きだった。まあ尻痛くないのかな?ぐらいは思ったけど。
年上の身内から譲られたのか、本人が直接買ったのか。いや前者でも後者でも大丈夫なやつなの?という疑問は消えなかったし、これを同じ年の他人にBLを薦める一作目にするのはどんなセンスなんだよ。
年齢的に読むべきじゃないであろう描写を読んでしまった妙な後ろめたさと困惑を抱えたまま、後日「ウーン……ワタシニハアワナカッタカナ……」とBL小説をオタク女子に返すと「そっかあ」と少しだけ残念さを滲ませた軽い返事が返ってきた。どうやってあの本を入手したのかは聞かなかった。聞くに聞けない気がしたし、聞き出したところでいいことがあるとも思わなかった。
その後はBL小説を貸されることはなく、されど彼女が熱を上げる作品やカップリングの話にウンウンと相槌を打つ穏やかな3年間を過ごした。高校を卒業した後はすっかり疎遠なので今どうしてるかは知らない。おわり。