中高と吹奏楽部だった。
俺の学校の顧問は合奏(集まって演奏の練習)をするときは、打楽器のバチ(ドラムを叩く棒)を両手で叩いてリズムを刻んでいて、演奏が気に入らないとバチを持った手を振り上げてから思いっきり足元の床にバチ投げつけては暴言を吐いていた。
狭い音楽室にギュウギュウ詰めだから、跳ねて人に当たりそうになったり楽器に当たることもあった。控えめに言って危ねえ。
俺も含め部員は騒ぐこともなければ、怯えすぎることもなく練習していた。ように思う。
ある日、顧問がバチを叩くことを辞め、電子ピアノのメトロノーム機能でリズムを刻むようになり、バチを投げることも無くなった。
それでも、合奏中に機嫌が悪くなるのは変わらず、ある日「親にチクるやつもいるしな」と愚痴っていたが俺は感心がなく「ああそんなことしたやつがいるんだ」くらいにしか思わなかった。
そんな感じで数ヶ月、特になんとも思っていなかった俺だが、ある日、吹奏楽部ではない友人から思いがけないことを言われた。
「おまえのお母さんすげえな。吹奏楽部の顧問に直談判したんだろ?」
寝耳に水だった。母親からも部員からも全く聞いていない。友人はそういう噂を聞いただけで詳細は知らなかった。
帰宅して母親に確認したら「言いに行ったよ。バチのこと~」と呑気に言う。
マジか。
母親に何でも話していた俺は、練習のことやバチの話もしていた。でも、問題提起をしたつもりはなかったし、母親も問題視しているようには見えなかった。
それから部員達は知っていたのか確認してみたら、俺以外全員知っていた。
俺が鈍感だったのか、皆から白い目で見られていなかったのかは分からないが、この数ヶ月間みんなと仲良く話していたし何不自由なかった。
顧問がおかしいのは一目瞭然だったし、当時は深く考えることもなく楽しいブラバンライフを満喫していた。