どんな時も人で賑わう美味しいとんかつ屋さん
席がほとんど埋まった店内
右にはサラリーマン
左にはビン底メガネ
どちらもとんかつに夢中ですわ
あなたの夢が全てここにあるの
あなたは幸せを噛み締めながらなにを食べるか考えているのですわ
ふとメニューの片隅に……
異物を見つけてしまいましたの
おやこどん!!?
親豚と子豚のどんぶりかしら?
間違いない
そうに違いない
あなたがそう思うのも無理もないわ
お豚のお店ですもの
お豚以外のお肉が必要ありまして?
だから
あなたは
注文を取りに来た店員に
親子丼を
頼んでみたの
親子丼を
頼んでしまったの
親子のお豚がどんなとんかつになるのか
どんな親子を食べられるのか
あなたの期待は高まっていく
とんかつだらけ
とんかつまみれ
とんかつがすべて
とんかつだけあればいい
ああとんかつが食べたい
とんかつが欲しい
とんかつが恋しい
愛おしい
親子のお豚のどんぶりを
見ました
それを見ました
見たはずです
それなのに
それは鳥
卵と鳥
ぱたぱた羽ばたく獣
とんかつになれない獣
お豚さんてはありません
ここにはお豚がいません!!
あなたは立ち上がったの
豚ではない親子丼を持つ
それをどうしたの?
店員に向けてどうしたの?
あなたはどんな声をあげたの?
どんな暴言を吐いたの?
暴力を振るったの?
どんな風に殴ったの?
どんな風に蹴ったの?
それからどうなったの?
つかまったの?
連行されたの?
あなたは今どこにいるの?
狭い畳敷の部屋で
美味しいとんかつを求めてしくしく泣くの
しくしく
しくしく
とんかつは遠く遠く逃げていく