そんなことはないと思うが、そう考えたくなった出来事を綴る。
先月のこと、個人医院の待合室に座っていたら幼児が私に向かって走ってきた。顔をみて驚いたのだが10年以上前に死んだ父親の顔が被さっていた。
正確にいうと映写機のスクリーンの前に人が立った時のような、その男の子の顔は微かに透けて見えるのだが、はっきり見えるのは父親の顔だった。
私は子連れには親切をモットーにしているので普段ならにこやかに相手をするのだがこの時は無理に作った笑顔が引きつっていた気がする。
「すみませーん」と子どもを回収に来た母親には辛うじてにっこりできた。
それで終われば疲れて見えた幻影で済むのだが、その後その子が私の方へくることくること。
懐き方が尋常ではない。診察が近くなって中待合なる場所に私が移動しても、母親が手を離した瞬間に走ってくる。
中待合の入り口が滑るらしくて毎回転びそうになるので、滑る地点近くに待機して倒れる前に捕まえなければならないほど。
最後の方では母親が「一体どうして・・・」と叫びながら回収に来た。どうしてなのか私も知りたい。
その子は最初にやって来たときは診察室から出てきたときだったらしく、会計を済ませて帰る、多分10分少々、長くても15分ほどの間によく覚えていないが7回以上は私のところへやってきた。
途中から「お父さん、やめて」と心の中で叫んでいた。
さすがにあの顔に「坊や」とは言えなかった。もっとも坊やがどんな顔をしていたのかはよくわからない。
きっと私はとても疲れていたんだと思う。顔を直視しない大人(怖くて出来なかった)に子どもは懐くものなのかもしれない。多分そうだ。今度ねこで試してみよう。