帰郷した多満子に達郎は、旧友のお好み焼き屋さん開店資金の保証人になったため借金があるという。ところが映画最後のシーンでは達郎は保証人になった店の種類がなんであったか忘れている。これはどういうことなのだろう。
おそらく借金は実在した。しかし名目は嘘だった。妻の仏前であらたまって宣言しているので借金自体はあったと考えられる。しかし名目についてはとっさについた嘘だった可能性が高い。旧友の開店資金の保証でなかったとしたら達郎の借金のほんとうの名目はなんだろう。
以下は推測。
それはフラワー卓球クラブの維持費だったのではないか。このクラブへの思いは多満子と華子、達郎ではかなり異なる。多満子はクラブに対して複雑な思いをもっており全体としてよい印象とは言えない。いっぽう達郎は華子の遺産であり華子の人生そのものだった卓球クラブに多満子とはまったく別のーおそらくつよい思入れがある。会員が減っても社交場になっても借金してでも達郎は建物を維持し華子の記憶をつないでいる。クラブの掲示板には卓球を関係のないフラダンス教室などのチラシが貼ってある。スペースを貸し出しているのだろう。達郎はしかしそんな思いややりくりを多満子に伝えたりはしない。それでも多満子の様子をきちんと見ており必要な時には最適なサポートをする。けっきょく達郎の借金を返したのはクラブを継いだ多満子ということになる。達郎のこころはさぞや晴れ晴れしているだろう。映画のなかに多満子が借金の真相を知るシーンはないが彼女が母華子とのわだかまりを浄化し恋人や仲間とともに自分なりの卓球をはじめるシーンははっきりと描かれている。