いや、正確には嫌い"だった"。
話は千本桜が投稿される少し前、ボーカロイドはどんどん曲が出てPも増えてと成長の真っ只中だった時のことだ。
成長期とは言っても、ボカロ好きならある程度再生数が伸びている曲は大体把握できている程度の規模感で、世間的にも今ほど許容されていなかった。
ボカロの曲を耳にした非オタ友人たちは声をそろえて「気持ち悪い」と言っていたのを覚えている。
まあ実際、当時のボカロ曲は今みたいな広い視聴者にウケそうな”イイ感じ”の曲にしようという感じよりも、性癖をありったけぶつけた感じの曲が多かったように思うから、オタク文化に触れたことのない当時のほとんどの人にとっては受け入れづらかったと思う。
あと声もか。
と、話は逸れてしまったが、俺はあの性癖が思いっきりぶつけられた、再生数の事なんか考えてなさそうな曲が次々投稿されてくあの空気感が大好きだった。
今みたいにPVなんか無くて静止画で、投稿者だって全くの無名で、でも歌詞は噛めば噛むほど味が出て。
そしてそんな曲が、たとえ自分の性癖にかち合わなくても称賛するニコ動の雰囲気も好きだった。
でもその空気感はそう長くは続かなかったんだ。
有名なPは次第にボカロを捨てて自分で歌うようになり、投稿されるボカロ曲は性癖を感じない”キレイな”曲が増えて、ニコ動もお察しな感じになって。
正直、クオリティはめちゃくちゃ高かった。
PVの作りこみも凄くて、曲だって良くて、歌詞も思わせぶりで。
俺はそんな千本桜が好きで、嫌いだった。
当時飲めなかったお酒をひとり飲みながら、Youtubeの「ボカロ名曲集」とうたう動画を見て、不意に誰かに話したくなった。
ごめんな、忘れてくれ。
よく分からんが、フリースタイルダンジョン初期のしょぼいラッパーがチャレンジャーだった時代がなつかしい、みたいなことか。