2018-11-22

空を飛んだニート

猫たちはニートが空を飛ぶのを見た。雲の間を自由自在に飛び回り、腕を振り回せば雷が起こる。猫に人間のことは分からないが、きっとニートは神になったのだと思った。

ニートの家のおばさんは野良猫に餌を与えることで有名だった。そのことで地域住民とだいぶ対立もあったようだが、おばさんは気にしないで野良猫を集めていた。おばさんは「酒鬼薔薇聖斗が来てもうちの猫には指一本触れさせない」という。

おばさんのもとには県議会議員からフリーターまで、いろいろな人間が出入りしていた。なかにホームレスまでいた。ホームレスは猫の餌だと言って公園で汲んだ水を持ってくる。おばさんは「あら、ありがとう」と言っておにぎりを渡した。ホームレスは猫の頭を撫でて帰っていった。

いろいろなひとたちが出入りしていたが、猫たちはおばさんの息子であるニートの顔を見たことがなかった。いちどだけ家のなかから「うるせえ、ババア」という怒鳴り声が聞こえた。人間たちはおばさんにひきこもり団体支援を受けたほうが良いと言ったが、おばさんはニートひきこもり団体のことを反日左翼の砦だと言って聞かないという。怒鳴り声は「私が死んだときのために生活保護の話をしたらキレた」という。

ある日、ホームレス公園で倒れていた。酒が大好きなホームレス神社祭り事務所から一斗樽を盗みだし、イッキ飲みをしていた。

倒れたホームレスのまわりに大勢の猫が集まってきた。なかにホームレスの酒を飲み、水甕に落ちて死ぬ猫もいた。異様な鳴き声をあげる猫に気づき住民警察を呼んだ。ホームレス最期に空を指差しながら「なんだい、ありゃあ」と言った。猫たちが空を飛ぶニートを見たのはそのときである。他の人間には見えなかったようだ。

ホームレス飲酒DVが原因で社会的破綻した男だった。元嫁は「あの人は人間じゃない」と言っていたが、猫たちは公園で死んだホームレスを見て人間だったと思った。

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