お母さん、生きてる時に、面と向かってありがとうって言いたかった。
お母さんは、とうとう俺を一度も叱らなかった。
俺にああしなさい、こうしなさい、ということが一度もなかった。
俺、いろいろ悪いことした。幼稚園のころ、小学1年の時から学校に呼び出されたりして、ごめんね。
中学1年の時も。
鳥のささみのカツやマグロの刺身、むかごが大好きだった。豆腐とわかめの味噌汁。あと、手羽先の大きいの。涙出る。
あと、甘い卵焼き。海釣りの時食べるおにぎりとあの卵焼き、最高にうまかった。
何度か、あの甘い卵焼きを再現しようとしたけど、できない。お母さんからレシピを教えてもらいたかった。
お母さんは、居て当たり前。だから俺は掃除、ご飯の用意、後片付け、洗濯物、買い物、全くやったことがない。
全部お母さんが黙ってやってくれてた。今思うと。
そのまま家出た。何もできないまま。
1人暮らしの部屋は片付けられず、洗濯もできず料理もできない。飲み放題。散々だったよ。
飲んで人に迷惑をかけなさんな、って、心配そうな顔で俺に言ったね。
やっぱ、全て見透かされてるなって。お母さんには嘘つけないなって。
聞きたくないけど、もっと他のことも、思ってることを言って欲しかった。
俺は、お母さんと語ることができなかったけど、親になって、お母さんの思いがなんとなく分かってきたよ。
お母さん、こんな出来の悪い俺でごめん。
でも、お母さんのおかげで、今は人に迷惑をかけることなく生活できてる。
このまえ、夢の中で、なんとなく夢じゃないか、と分かってて、お母さんに、「ありがとう」って言えた。
生きてるうちに、何にも言えなくてごめん。言いたかった、言えたとしても、背を向けるんだろな。
お母さん、今日夢に出てきて。