2016-05-30

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いつも彼らはどこかにを読んだ。小川洋子短編はいつも難しい。いかにも文学って感じだけど、不思議と心地よい感じがするのが面白いと思う。

個人的に一番分かりやすくて感じ入ったのが、ビーバーの話だった。場面描写が美しくて脳裏にありありと浮かんでくるのが素敵だったし、ビーバー生き様登場人物生き様リフレインさせていいるのが理解やすかった。質実剛健というとニュアンスが変わるのだろうけど、慎ましやかであることとか堅実に過ごすこととか着実に生きることを、あるいはそうあったことを讃歌している一編で読後感がとても良かった。

兎の話は熱に浮かされた人々の醜さというか残酷さが現れていた内容だったと思う。個人個人は取るに足らない悪しか持っていないのだろうに、大衆群衆になるとこうも悪臭を撒き散らすのかって感じの物語で、ざらざらした読後感が残ってしまった。

小鷺の話は奇妙でユーモラスだったし、蝸牛の話は不気味でホラーちっくだった。馬の話は不安感を、チーターの話は喪失を描いていたんだと思う。犬の話は(他のもだけど)よくわかんなかった。

最後の竜の落し子の話もこれまたよく分かんなかったんだけど、場面がどんどん幻想的に、現実世界と地続きなのに風景画のような美しさに満ちていくのが印象的だった。先人たちが何かを書き残した洞窟だったり、鐘楼けが突き出た湖だったり。美しい旅の話だった。

折角の短編集なので、一編一編じっくりと味わうのがいいと思う。一気に読むのは、いろんな作風の余韻が混ざり合って悪酔いするかのような感覚に陥るからおすすめしない。

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