2015-10-11

東北本線一ノ関盛岡

20数年前、18切符で真冬の東北を旅した。

19時台の東北本線下り盛岡行のボックス席に俺は乗っていた。

車窓は一面雪の風景だ。車内に人は少ない。俺しかいないんじゃないか。

花巻駅高校生グループが乗り込んできた。

東北美人というが、本当にきれいな顔立ちの女の子たちだった。わるくない。

グループは楽しげに談笑していた。声が通る。なんでも聞こえる。おおらかな連中だ。

聞こえるからわかったが彼らは吹奏楽部所属らしい。

駅に停車するたび彼らの仲間は何人かずつ下車していく。

グループの残りは二人だけになった。二人が俺の斜め向こうのボックス席に残った。

残ったのは、2年生の先輩女子と1年生の後輩男子らしい。

二人の会話が聞こえてくる。大半は先輩女子が話している。

俺の場所からは先輩女子けが見える。美しい。すっぴんであれなのか。

あん美人でやさしい先輩がいたら俺の高校生活も楽しかっただろうなとうらやんだ。

あの先輩って後輩の指導うまいよね、誰さんはグリッサンドうまいよね、などと

会話の内容が聞こえてくる。微笑ましい。

きっと先輩女子は後輩男子が好きなんだろうな、俺にはそう思えた。

そんな会話が、気が付くと聞こえなくなっていた。

「あれ、彼ら、もう下車したかな?」

そう思って斜め向こうのボックス席に俺が目をやると、先輩女子の顔に後輩男子の頭が

重なっていた。

「おっと・・・

俺は視線を外し、車窓の雪で埋まった東北夜景を眺めた。

曇った車窓を俺は手で拭く。まばらな明かりが見える。

車外はきっと寒いと思うが、車内の暖房はしっかりかかっており暖かい

そのまま次の停車駅まで二人の会話はなかった。

会話はないが、見つめ合ってはにかんでいるようなやりとりは聞こえてきた。

停車駅だ。後輩男子が立ち上がり「降ります。また、明日」と、言葉少なに降りていった。

後輩男子が降りたあとの車内には俺と先輩女子けが残った。

静かな車内にレールを越える車輪の音が小気味よくリズムを刻んだ。

先輩女子確認するように自分の唇に手を触れていた。

盛岡の2つ前の駅で先輩女子は降りていった。

銀河鉄道の夜を書いた宮沢賢治花巻から東北本線で俺はそんな美しいシーンに居合わせた。

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