今また新しいところに行きたいと思う気持ちと、結局どこに行っても変わらないという諦観との間でゆれている。
地元はどんどん窮屈になっていった。
ここを出たいと思った。
そうすることができるような進路、仕事を選んだ。
この間この地域では一番高い山に登った。
山小屋、というよりも土産屋と飯屋とガイドの待機所、のようなところで、そのオーナーから色々話を聞いた。
その山の歴史、どうしてこういう名前になったのか、伝説のようなウソのような言い伝え、これからの天気がどうかわるか・・・きっと話にはよどみなく、分からない言葉も沢山あったが、彼の身振り手振りと顔の表情で話の内容がそのまま頭に伝わってくるような、そんな洗練された、名人の落語のような話術だった。
天気の回復を待って山をみている独り者の旅行者を捕まえては、毎日のように話をしているのだろう。
「最高の女がいるのに、浮気したら取られちまうかもしれないだろ。それと同じだ」
面白がって聞いてくれたので、自分の旅行の話もしたが、オーナー自身は旅行しないのかと聞いたら、そう答えてくれた。
「表情も毎日違う。来る人も違うし、その人たちが来た理由も、お前さんがしてくれたような昔話も全部違う。毎日が新しいし、ここにいれば世界中のことが分かる」
そんな山を探したいと思っていたはずなのに、自分には見つかっていない。
なぜだろう。
違った世界を見たいのに、結局同じものを多少エフェクトの違うフィルターを通して見ていただけだった気がする。