男の容姿は肌が真っ黒で、目が小さく、天パで、唇が分厚くて とにかく容姿が醜かった。
声は自分と同じように通りが悪い、人に何かをいうのに適していない声だ。
悪い声質ということだ。
醜い容姿の自分は神保町駅の方向を指さすと、男は「高校何年生ですか?」と聞き始めた。
おそらく何かの勧誘であろう。
神保町駅の方向を黙って指差し続けていたら、男は「はい、ありがとうございます」と言ってそこへ向かって歩いて行った。
ショックだった。
父親の会社での労働もどき後で、そのために着ていた服が高校生に見えたのだろう。
なんとか自分のなかで許せる。
つらいのは、自分が弱々しいい容姿の醜い者から勧誘をされたということだ。
強引な勧誘というのは、勧誘する者は自分よりも弱い者を勧誘しようとするのがいつもである。
つまり弱々しい、声質が悪い、容姿が大変醜い男に何かの勧誘を食らったというのは、その男から自分はその男より「容姿が醜い者」という評価をいただいたのだろう。
あの容姿が醜い男は自分のような男にしか声をかけていないはずだ。イケメンや美人に声をかけるような容姿じゃないからだ。
もし、自分がイケメンや美女なら声なんかあんな醜い者から声なんか掛けられない。
街の容姿が醜い男という第三者から容姿が悪いという評価を頂いた勧誘だった。
勧誘を断れても、容姿が醜い男である自分は容姿が醜い男に容姿が醜いと評価されたことを1日経った今も気にし続ける。
あの容姿が醜い男は今日も自分と同程度、もしくはそれ以上の容姿が醜い男に声をかけ続けるかもしれない。
あの男の容姿が良かったら、あんな惨めな勧誘なんてしていないで駿河台上の大学で楽しんでいる強者だったかもしれないとも考えた。