会社からの帰り、お局様に片足突っ込みかけた先輩がいきなり声をかけてきた。
「私さん、編み物できるんでしょー?これでマフラー編んでちょうだい。すぐによろしくね、バレンタインまでよ!」と、紙袋を握らせると、「よろしくねー!」と言いながら、先輩は走って行ってしまった。
ポカーンとなりながら袋の中を見たら安っぽい毛糸が3玉入ってた。そういえば先輩、違う部署に転勤で来た男性といい感じなの~って仕事中話してたなぁ。そう思いながら家路についてたらバレンタインまで後5日だという事に気がついた、もてない自分。
家に帰るとすぐに父親に「これでマフラー編んで~」と、紙袋渡した。私が編み物できるのは父親のおかげ。父は上機嫌で編み始め、あっという間に終わった。「洗わないと…」と言ってきた父には「後で自分でやるから。ありがとう、お父さん」と、マフラーを紙袋に突っ込んだ。
翌日、先輩の事を考えて、ふたりきり目立たない場所で紙袋を返した。「もう出来たの?ありがとね」という先輩に「いちお洗ってくださいね」と、言ったが、先輩はルンルンとどっかに行ってしまった。
バレンタインデー当日、先輩は昼休み直前に他部署に行き、気になる相手にチョコとマフラーを渡したらしい。色んな人の前で、一生懸命作っただの言ってたと、噂話すきなおばちゃん社員が社食で嬉々として話してた。
でも先輩はすぐにふられた。問題はあのマフラーだった。マフラーが凄い異臭を放ってたと、他部署はその話題で持ちきり状態だった。先輩洗わずに渡したのね…そりゃ臭いよ。加齢臭ムンムンで、飲酒喫煙直後の父親がノリノリで編んだんだもん。しかも父親は私が帰ってくると、その日1日の出来事を子供みたいに話すから、マフラーにも唾がたくさんかかってただろうし。
先輩は私にとりなしてもらいたそうだったけど、他部署で手作り宣言、挙げ句噂話すきおばちゃん先輩に色々聞かれて、編み物が得意だの言っちゃったしね。私がどうこうできる問題じゃなくなっちゃってた。
でも諦めきれなかった先輩が文句を言ってきた事があった。私は素直に「日にちもなかったし、すぐって言うから、編み物のうまい父に頼みました。後渡す時に洗うよう言いましたよね?」って言ったら、黙っちゃって、それからは何も起きなかった。
GJ!
釣り乙 たった一日で手に持った毛糸がそこまで臭うかよ。
「釣りをやってる俺、かっこいい」「俺は釣り"師"だ」