雨宮処凛には会ったことがある。
俺からしたら、当時はやったなあプレカリアート、って感じです。
それに参加したのだけど、だいたいの雰囲気はこんな感じ。
「経歴に穴があくとやっていけないこの世の中、こわいですね」
「ブラックだとしても正社員なだけマシな厳しい世の中、こわいですね」
「非正規雇用がこれだけ増えている世の中、こわいですね」
こんな感じの悩みとも言えない漠然とした社会問題を、雨宮に提議して、雨宮が回答する、という流れ。
これを聞いてて俺は思った。
なんだこれは。
この茶番は。
この会に参加している誰もが、当事者意識を持ってないじゃないか。
非正規雇用こわいと言いながらも、この中の誰もが自分がそうなるだなんて思ってないじゃないか。
それに対する答えを求めて僕は参加したし、本当に恐怖心を持っている俺からしたら、今この大学に来ている君たちは
そんなことにならないよ、勝ち組だよ、と言ってほしくて参加しました。
なのに何これ?
檀上に出ている学生の誰もが、本で読んだ問題について質問してるだけじゃないですか。
自分がそうならないために、というような実践的な質問もなければ、具体的に身近な人のエピソードもないじゃないですか。
言っちゃ悪いけど、あなたたち甘くないですか?
社会に入れず死んでいくのこわいですよ。
勝ち抜けた人間が、勝ちきれない人間をだしにして遊んでるだけですよね?
雨宮はこう答えた。
「私は物書きです。
書けなくなったら、いつ私も昔に戻るかと恐怖心はもっています」