具体的に言うと、帰社時挨拶されない、女性職員から膨大な仕事を振られて残業になりかけても見て見ぬふりをされる、などなど。
去年若い臨時職員が部署の全員にチョコを配り両手で抱え切れない程のお返しを貰い次年度の業務をGETしていた。下らない仕事だが、継続してボーナスが入ればデカい。
自分も前例に倣うべきだと、倣わなければこのクソ狭コミュニティの中では村八分に遭うだろうというのは想像に難くなかった。
バレンタインとは謂わば職場での立ち位置の奪い合い、コネとエゴが右往左往する一大イベントなのだ。
ちょっと仲の良い職員には色を付けた商品を、何なら業後こそっと手渡す。
なので、異動前の部署へ突撃してバカ高いお菓子をバラ撒きたい。
一部の人は私を思い出すだろう、女性職員の中で爪弾きにあいながらも「家族のようで楽しかった!」と最近見聞きした推しの挨拶をそのまま流用した私を。
仕事が逼迫し上司にブチ切れ、しかし本心では仲良くなりたくて趣味の話を合わせていた奇怪な言動を繰り返す私を。
何故ならその部署のエリート新人は今の部署の二十代新人と内通しており、夜な夜な呑み歩いては赤提灯の下、頬を染めている。
私はその人間関係に一石を投じるのだ。
まるで全人類を愛するが如く、博愛主義者の如く身銭を切って返報を求めないが如く、貞淑な妻の如く、三月のイベントなど何も知らないかの如く、配り続けるのだ。
歴史に大した名も残しはしない、細やかな私の愛のプレゼントに一同顔を歪めるがよい。