敗戦が決定するまでの過程の中で、組織の構成員たちは痛みを分かち合っただろうか?
「いいえ。常に一生懸命働いて、成果を上げている人たちほど大きな痛みを背負いました。」
経営層はヤバイとわかったあたりから猛烈に現場をプッシュし始める。実際のところ手遅れだ。だが、中長期戦略を考えることのできない無能経営者にとって目前の決算が悪いという状況を理性的に受け入れることは不可能だ。青筋を立ててプロジェクターの投影された壁をたたき、報告書を破り、部下に投げつける。
この段階からの努力は不毛だということが現場の指揮官たちにはわかっている。しかし、社長の手前、誰も何もしないわけにはいかない。
犠牲になるのは普段からまじめに仕事をし、客とのパイプが強固なチームだ。なぜなら彼らには未着手の(そして客が早く着手してほしいと思っている)案件が数多くあるからだ。
上層や周囲からプッシュされて、彼らは未着手の案件に着手することになる。短納期、少リソースで、しかもこちらの都合で着手するため、客の言うなりになりがちで進行を適切にコントロールすることも難しい。当然、案件は失敗するか失敗しないまでも客からの評価を大きく落とすことになる。さらに案件にアサインされたメンバーはあり得ない工程の中でのたうち回ることになる。
チームは客からの評価を落とし、指揮官は部下からの信頼の貯金をすべて吐き出し、見るも無残な姿となり果てる。
彼らがそうまでして得た売り上げも、決算の内容を変えるほどの影響はない。
決算が悪ければ、その中でだれが頑張ったかなど、上層部は気にしない。億単位の売り上げ減の中で数千万を売り上げたとして、そのなにを評価できる?
多少まともな頭の経営者なら、敗戦が見えた段階で、負債案件の整理と来期以降希望の持てる案件へのリソースの再配置などを検討するだろう。しかし、現実にはそんな判断ができる経営者はいない。