2013-12-05

表現者の段階

 自身、底辺表現者の端くれとして、普段思っている事を書いてみる。

 表現でメシを食うプロフェッショナルには、大きく3つの段階があると思っている。

 1つ目は、顧客要望に合わせて納品出来る段階。 天才でもない普通の人が、表現プロとしてメシを食っていくには、最低限、ここに達していなければならない。 残念ながらと言うか当然と言うか、表現プロを目指したほとんどの人が、この段階にとどまり、次の段階に行く事が出来ない。 ここから先は、努力も運も、並はずれたもの必要になるからだ。

 この段階の人達は、表現者ではあるものの、「自分表現したいもの」を作っていてはメシが食えない。 顧客代弁者しかない。 しかし、価値が無いわけではない。 それどころか、この段階に達した表現者は、貴重である。 絵描きでもモノ書きでもプログラマでもそうだが、「カネが取れるレベル表現」が出来る人は、出来ない人より圧倒的に少ない。 顧客は「出来ない人」であり、「出来る人」の能力を欲している。 「出来る人」が「出来ない人」より圧倒的に少ないという現状が続く限り、この段階の表現者は食っていける。

 ただし、この段階に在るプロは、自ら顧客を探し当ててこなくてはならない。 この段階の表現者に向かって、「あなたを探し出しました、この仕事を依頼したくて」と言う顧客がいたら、それはたぶん詐欺師である

 2つ目は、顧客要望に対して提案出来る段階。 顧客が「こうしてください・こうして欲しい」と言っても、「……いや、そこは、こうした方が良い・こうすべきです」と、見方によっては顧客要望を否定するような事を言える段階である

 顧客は「素人」なので、素人ならではのとんでもない案件を持ち込んでくる事がある。 それを何とか実現する事が飛躍につながる事も無いでは無いが、大抵は、素人ゆえの無知に拠る無茶振りであったり、矛盾を含んでいる事が多い。

 この段階の「プロ」は、顧客要望を全て満たしてハイ終わり、ではなく、顧客要望に潜む問題点を早期に見つけ出し、代案を素早く考え、提示し、時には顧客を説得する。 プロフェッショナルならではの知識と技量視点をもって、顧客要望を叶えていく。 顧客自らがうまく言語化出来なかった要望を炙り出す事もする。 この段階に達したプロは、顧客の単なる代弁者ではない。 自らの表現能力に自信と誇りを持って、顧客要望という材料を、見事な逸品に仕立て上げる料理人である

 この段階になると、顧客を自ら探す事も有るが、顧客表現者を探してくれる事もある。 1段目に比べると、「営業」は格段と楽になる。 プロフェッショナルとして、努力で到達出来る最終地点であり、この段階に達した表現者は、同業者尊敬の対象となり、社会成功者でもある。

 3つ目は、表現結果に、勝手顧客が付く段階。 誰から要望をこなしたわけでもなく、ただ自分表現したいもの表現した成果物を、誰かが勝手に買い取ってくれる段階だ。 放っておくと誰かが買ってしまうので、買い手は多くなり、当然の結果として表現物の価格は上がる。 この段階のプロは、もはやアーティストである

 ここに到達出来るのは、ほんのわずかな、才能と運を持ち合わせる人だけだ。 多くの表現者が、この段階を目指し、そして、そのほとんどが1段目でプロとしての生涯を終える。

  • 顧客はできない人というのが、表現の世界では間違ってるんじゃね? 少し前に、でてたけど。   できない人はGmailを使え。要望は受け付けない。という社会が来ている。

    • 編集者は小説が書けないし、ITシステムを導入したい顧客はプログラミングが出来ないし、フランス料理を食べにいく人達がプロの料理人が作るようなフレンチを作れるわけでもない。 ...

      • フランス料理を食べにいく人達がプロの料理人が作るようなフレンチを作れなくても、そこそこのフレンチは作れる。というのが世界レベルなわけだが? それって、原監督は野球ができ...

        • 「グローバル」では「顧客」という概念は消失し、編集者が自ら小説を書いて本を作り、フレンチを食べに行きたい人は自分で作り、ITシステムを構築したい企業はSIerに頼まずオンプレ...

          • 原監督は、表現者に依頼する「顧客」なのですか? 比喩を発言者の意図にそって展開できないか・・・。じゃぁもう無駄ということはわかったけれど。 うーん。それはそれで、由々し...

            • 原監督は、表現者に依頼する「顧客」なのですか? 比喩を発言者の意図にそって展開できないか・・・。じゃぁもう無駄ということはわかったけれど。 比喩が適切じゃないんだよ...

          • それは相手のレベルに下って物を書けない人間の言い訳と努力停止。自分の方がレベルが高いという自己満足。 福沢諭吉は「猿が読むのだと思って書け」と言った。伝わらないのは伝え...

        • フランス料理を食べにいく人達がプロの料理人が作るようなフレンチを作れなくても、そこそこのフレンチは作れる。というのが世界レベルなわけだが? そうなのか。。。?ごめん、...

          • おまえさんさ・・・じゃぁ 日本食だともっとわかりやすいけど 日本食食いに行って、客は日本食食えますけど日本食作れませんって、言われたら ポカーンってなるぞ。

            • 日本食食いに行って、客は日本食食えますけど日本食作れませんって、言われたら ポカーンってなるぞ。 え?世の中にはただの一度も自炊したことない人だって居ると思いますが?...

            • 日本食食いに行って、客は日本食食えますけど日本食作れませんって、言われたら ポカーンってなるぞ。 え?世の中にはただの一度も自炊したことない人だって居ると思いますが?...

        • 野球ができない野球ファンはたくさんいる 企業にとっての顧客は監督よりファンに近い立場だろう

    • hint: 時間は有限

  • そういう働き方ってまさに昭和の日本そのものだよなー。 職人の質は高かったけどそれだけではもう一部の例外を除いて売れなくなっている。 あとはまぁ経済史でも読めばだいたいの流...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん