「……え?」
ついさっきまで、俺は会社のパソコンの前で資料をまとめていたはずだ。それが、気がつけばここにいる。まさか、これって――異世界転生ってやつか?
「またかよ……」
オタクな友人が言っていたのを思い出す。転生する奴って、ほとんどがトラックに轢かれたり、過労死したりするんだと。でも俺はそんなのじゃない。単純に「寝落ち」しただけだ。まさか、それで転生って――
「おい、そこのお前!」
いきなり、聞き慣れない言葉で呼び止められた。振り向くと、そこには見たこともない服を着た男が立っている。背が高く、筋骨隆々だが、その顔には不機嫌そうな表情が浮かんでいる。
「……キモいな」
「え?」
俺は固まった。何だ、こいつは? よく見ると、周りの木々にも奇妙な模様が浮かんでいて、それが風に揺れるたびに奇怪な音を立てている。どうやら、ここは俺の知る世界じゃないらしい。
「……顔?」
「そうだ。目が二つに鼻が一つ……普通すぎてキモい。お前、どこから来たんだ?」
なんだこの世界。さっきから「キモい」ばかり言われている。俺の顔が普通すぎるって? そもそも、異世界で「普通」って基準はなんなんだ?
「お前、何か役に立つ能力でもあるんだろうな? まさか、ただのキモいやつってわけじゃねぇだろ」
男は険しい表情で俺を見下ろす。そうか、異世界転生ってことは、何かチート能力があるに違いない! そう考えた俺は、恐る恐る両手を広げ、何か力を感じようとした――
しかし、何も起こらない。
「……能力? 俺、何も感じないけど?」
「はぁ? マジでただのキモいやつかよ。これだから異世界人は……」
「いや、待ってくれ! きっと、何か能力があるはずだ!」
「ったく……。キモい奴が役に立たねぇとか、最悪だな」
こうして、俺は異世界に転生したものの、どうやらこの世界では何をしても「キモい」と言われるらしい。しかも、チート能力もない。
「お前、名前はなんだ?」
「……もう慣れてきたよ、その言い方」
この世界で、俺はどうやって生き延びていくのだろうか……。