何年かぶりに会う人だった。
すごくお世話になった人。久しぶりに声をかけてくれて、懐かしくてご飯を食べてきた。
変わらないねと言われて、変わりましたよと応えて、簡単に近況を話して、懐かしい昔話をして、帰路に着いた。
帰ったら、恋人が聞いてくれるだろう。
「楽しかった?」そこに他意はなく、私が楽しいひと時を過ごしていてほしいと思って聞いてくれる。私だってそうだ。恋人が出かけたときはそう聞いて、どんな会だったかの話題で盛り上がる。
懐かしくて、久しぶりで、確かにあの頃と好意の度合いは同じはずなのに。
久しぶりに会うという新鮮さはあっても、私はもう、あの頃の自分をとっくに忘れてしまった。
どんな顔をすればこの人の言う「変わらないね」なのか、自分でももうよくわからない。
その人が話す当時のエピソードも、私はいくつかすっかり忘れてしまっていて、代わりに私が覚えているものも向こうはいくつか忘れていて。
なじみの友達と遊んだ後とともまた違う、少しの疲労を感じながら帰りの電車に乗り込んだ。
たまたま隣の方の体臭が私には吐き気を催す恐れがあったので、限界まで耐えてからよその空席にうつった。
嫌だったとか、もう会いたくないとか、そういうのとはまた違う。
でも、なんとなく、それだけ、私の今の日常は、私にとっていちばん居心地のいいもので溢れているのだろうと気づいた。