冬休みの寒い日。近所の駄菓子屋さんに兄妹3人分のアイスを買いに行った。バニラのソフトクリーム。
田舎のまっすぐな道。アイスが溶けない距離。失敗しようがないコース。
3人分ケースから選んで、小銭をお店のおばあちゃんに渡して、ここまでは完璧。あとは帰るだけ。
そこに難敵が現れた。駄菓子屋の、放し飼いにされている犬、ユキだ。
その日のユキはアイスを狙っていた。後をついてきて、袋にまとわりつく。無視しても前に立ちふさがる。なんだか怖い……。
この状況を打開する作戦として思いついたのが、アイスをひとつ犠牲にして、あげてしまうこと。ユキが食べている間に逃げ切ろう。
フタを外し、ユキにソフトクリームをあげる。予想したとおりベロベロ舐めている。今のうちだ。そーっと歩き距離をとる。
ところがである。ユキはひとつを食べ終わる前に、走ってきて、また前方でハァハァしてきたのだ、え、食べ終わってないのに。ずるいよ。
ここで思いついたのが、アイスをもうひとつ犠牲にすること……。これで最後だよ? パトラッシュ。
とにかく時間を稼いで、帰路を急ぐ。
と、ところがである。二度あることは三度ある。ユキはまたしても、前をふさぎ、最後のひとつをほしがるのだった。
パニックである。もうしょうがないのである。最後のひとつをあげるしか手段は残されていない。
そのあとの記憶はあいまいだ。とにかく泣きながら逃げて、顔をぐしゃぐしゃにして、おとうさんとおかあさんに一部始終を話したような気がする。
こうして、はじめてのおつかいはしっぱいに終わった。駄菓子屋さんの飼い犬に300円分を回収されるという、苦い思い出だけが残った。
たまに帰省すると田舎の景色はまったく変わっていない。でも人は減って、空き家か増えた。駄菓子屋さんはもうないし、ユキはもういない。