珍しく早起きしてリビングまで降りると、定年を迎えた父がノートパソコンでアダルトビデオを見ていた。私は気づかないふりをして自分の部屋に戻った。
「年をとっても性欲はあるんだよなあ」という当たり前のことを思ったけど、同時に「特に下半身をいじらなくても性欲って満たされるものなんだろうか」って疑問を持った。私なんかだと下半身をいじらないと満足できないのだが、まさか父に聞くわけにもいくまい。
話は全く変わるけれども、思春期を迎えてから親にも性欲があるとわかった後で、そういえば「あれは夫婦二人きりになりたかったんだな」と思い出されることが多々ある。妙に早い時間に寝ろと言われた晩だとか、家族でスキーに行ったはずなのになぜか子供だけ地元のスキー講師のところに追いやられたときのことだとか。
もう少し大きくなってくると、父と母の性欲の量の差をうかがわせるエピソードもある。北国にドライブしたとき、なぜか家族風呂に入ったことだとか、伊豆の混浴温泉に連れていかれたことだとか。もしかしたら、父はもっと母と同衾したかったのかもしれない。この家族風呂の話は、家族の前ではあまりしない。別に裸を見られたのは嫌じゃないんだけれど、照れ臭いからだ。それに、両親が性交回数を増やそうとした努力を思い出させるのもどうかと思うからだ。
今となっては、たぶん両親はそういうことはしていないと思う。私の部屋の隣が夫婦の寝室だし。とはいえ、別に仲が悪いわけでもなく、当番制で作った夕飯についてああだこうだ互いに注文を付けあっている。