よく晴れた7月下旬の午前11時、駅に向かう途中のただっ広い公園。
早朝の冷たい空気が強い日差しに当てられて暖まり、ゆっくりと上昇しながら刈られた芝生の上を移動していく。
4歳の息子は、木陰から小さな石を拾っては、ポイと投げる遊びに夢中だ。
危ないよ、気をつけて。と周りを見渡しながら、誰もいないことが分かると少し静観することにする。
息子は、少し大きい石を見つける。
彼にとっての拳大、手に握るのが精一杯というサイズだ。
声をかけて近寄ろうと、一歩を踏み出した瞬間。
彼が上に向けた掌の上の石が、ふいと空中に浮き上がる。
投げた、という表現があたらない、力をかけていないのに彼の手を離れ、わずか数センチ空中へ浮き上がる。
息子は目を大きく見開いて、石を見つめる。何が起きているのかを観察する。
わたしは踏み出した一歩が芝生に着地したまま、動くことができない。
石が浮き上がった角度、午前から午後に向かう空気の流れ、息子と石を観察できる角度。
そのすべてが絶妙なものであり、崩すことができない、崩してはならないものに思えて、そこから動くことができない。
掌の上数センチに滞在するかに見えた石は、そこから上にさらに浮き上がる。
わぁ、と母音がちな声を上げてそれを追う手をかわすように、浮上のスピードが上がる。