どんよりした夜明けの空気に部屋が侵食されていく。カーテンの間から覗くと曇り空がこの街全体を包み込んでいるようだった。
一昨日の新年会の一件を未だに引きずっているのは社内でも自分だけだろう。
ふと上司の言葉を思い出す。「俺は酒が入ると思ったことを包み隠さず口に出すタイプだ。
粗相をしてしまうこともあるが、飲みの席では目立った方がいい。でも俺の良いところはな、
次の日になれば大抵覚えてないんだ。笑笑笑」
自分は言われてどんな顔をすれば良いのか分からなかった。自分も出来るならそうしたいっすよ。面倒な先輩に捕まった後輩と悟られるのが怖くて何も言えず無表情を貫くだけ。
とことん聞いて納得いかなければぶつかって、自分の仕事の幅をどんどん広げて影響力がある人ならなきゃ駄目だと、耳の痛いことをおっしゃってくれた。
自宅に帰ってからムクムクと反抗心が芽生えてきた。
知ってるよ。要領が良い人は、たとえ心の中で
納得いかなくても上司の話を真摯に受け止めてヨイショができて気持ちよくさせることができて可愛がられる。絶対その方が得なの知ってる。
俺はちげぇ、小さいプライドが捨てきれず、つまんねーなー話してんじゃねーよって顔に出ちゃうから必死に無表情を作る。
つまらない顔すんなよって言われて、ごめんなさいしか出てこない。何言えばいいかわからない。決して本音を口にする事はない。胸の内の言葉を喉のあたりで変換して、いつも出てくるのは中途半端な的を得ない言葉ばかり。
元気ないって言われる。 お酌すれば頑張ってお酌しなくていいよって言われる。
本音で生きたい。
溌剌とした表情で生きたい。
こうやって飲み会が終わる度、独り反省会を繰り返してきた。いつまでたってもヘラヘラして大人になりきれない。
それは逃げなのかも。