「片山さんは浩太朗さんと同級生なんでしょう。人柄はよく知っているんじゃないかしら」
「小学生のころのコータは知っているよ。でも大人になってからどんな風になっているかなんて分からないだろう。」
穏やかに語る片山を見ながら、暴れだしたい気分になった。酒を飲んですでにべろんべろんになっている。小学生のころカタブツだとおちょくっていた片山は社会人になってからも相変わらず堅物で、不真面目だった俺は相変わらず不真面目なつもりでいるのに「鰯野さんの仕事ぶりは真面目」というクソみたいな評価を得ている。
気がかりは浩太朗のことだ。小学生のころは愉快な奴だと思っていたが、傷害事件を起こして逮捕されたとき「俺は鰯野の知り合いだ」とわめいたらしい。デモの時におまわりの前でチ◯コを出して逮捕された俺の名前を出せば警察がひるむと思ったらしい。馬鹿野郎、逆効果だ。俺から警察から袋叩きの目に遭わされたことが勲章になっているが、それが致命傷になる人間がいる。それが分からないほど馬鹿だったか。
「まあ、警察の人権侵害なんか今に始まったことではないでしょ。浩太朗さんのことを信じましょう。」
俺はあたりさわりのない言葉で論評する。浩太朗が獄中で人権侵害だとわめいているのに俺が人権侵害だと言わないわけにはいくまい。
浩太朗が警察の取り調べのあとに反警察に振れるかどうかは気がかりだ。それなら反警察のシンボルとして生きる道もあるだろう。しかし、そうではなくて「もうこりごり」となった挙げ句、常識人を気取って「鰯野、警察なんか敵に回すもんじゃないぜ」と言い始める気がする。そうなれば俺は浩太朗を殴らざるを得ない。
そんなことを考えながら酒を煽った。いろいろ言いたいことはあるが、「仕事がいい加減だ」と片山に3時間説教されたので議論する気が起きない。あとで匿名掲示板で暴れれよう。ちくしょう。俺はなんで真面目だとか言われるんだ。