布団から出られない程だった姉の鬱がやや寛解した頃、姉はシルバニアファミリーの人形でままごとをしはじめた。姉はシルバニアの赤ちゃんで、シルバニアファミリーの人形たちに世話される。シルバニアの人たちにミルクを貰ったり、「おしめ」を変えてもらったりしている。
俺たち家族も赤ちゃん返りに付き合わされていて、「うさぎのお姉さんからミルクもらったよ。スヤスヤ」みたいなLINEが昼間に飛んできて、「よかったねえ」とか返してる。虚無じゃないといえば嘘になる。
姉は認知症のようなものだと俺は思ってる。複雑な思考や状況に耐えうるだけの脳の能力が失われてて、残った脳の能力で体や意識を動かしてるから、幼児レベルに単純化したことしかできなくなってるんだ、と。
鬱になってから、姉は祖母にベッタリで、逆に両親の悪口をよく言うようになった。俺たちの親は離婚している。姉は特に問題なく平気そうに振る舞っていたが、実はずっと悲しかったんだろうな。親の離婚と受けたダメージについて、毎日、祖母に泣きついているらしい。ここがサビだから同じこと何度も言うけど許して、みたいなツイートをおもいだして、これが姉の人生のサビなのかとか思うと辛い。もっと楽しいこととかあったじゃんって。忘れちゃったんかね。
祖母が元気なうちはいいが、彼女もいつ倒れてもおかしくない年齢だ。そうすると姉は社会福祉施設か何かに行くしかないと思う。どんよりする。