2019-04-20

劣等感

 私にはメールアドレス名字だけだった。父を感じられるものが1つなくなった感覚だった。

 物心がつく前から母子家庭だった私は、大学卒業するまで父から養育費を貰っていた。父との記憶ほとんどない。どんな顔で、どんな匂いで、どんな方言で話すのかも、よくわかっていない。父もきっと私と同じで、娘のことをよくわかっていないだろう。

 そんな娘に22年もの間、養育費を送り続けてくれた父に、感謝文章と共に卒業式の写真を添付したメール送信した。白黒の袴。バッチリキマってるメイクヘアスタイル。この日の私は今までで一番輝いていた。ワクワクしていた。首を長くして待っていた。綺麗だね、って言ってもらえると思った。

 暖簾に腕押し。返信が来なかった。父からの、返信が、来なかった。

 22年間も養育費を送ってくれていたのだ。そんな父から愛されていると錯覚していた私には、大事件だ。しかし、生まれてすぐの私をほっぽった後、今は別の家庭で三児の父をしているわたしの父だった人は、わたしのことどうでもよかったのかも、しれない。わたしは父のことどうでも良くないし、むしろ執着している。父のことを考えるだけで泣きそうになる。母が「旧姓は嫌い」という理由旧姓に戻さず、父の名字を使っているせいで、己の名字を書くたびに父を思い出す。ほとんど幻に近いものとしての記憶しかないのに。完全にファザーコンプレックスに陥っている。

 呪いだ。父に呪いをかけられた。父が残していった、いや、奪っていったものは、わたしには案外大きすぎたのかもしれない。

結局数日後に返信はきたが、素っ気なく、ありきたりな文章で、添付された写真のことは、ひとつも触れてくれなかった。

 わたしは父をよく知らないまま、新社会人になっていく。歪んだ器は、一生歪んだままなのだ

 父よ。よくわからない幻を、諦めきれずに追い続けるわたしのことをどうか、どうか愛して欲しい。

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