「お前はずっと母さんと一緒にいるんだ。母さんはお前がいなくちゃ駄目なんだよ」
最初は、共働きの親から頼りにされているという事で褒められているんだろうと思っていたけど父親は何年もかけて私に同じことを言い続けた。
ある時、それは私が中学生くらいのころだっただろうか。
ヒステリーを起こして喚き散らした母が鎮静後私のところへ来て行った(母は子供たちに怒り散らして鎮静化したあと必ず子供のところへ来て猫なで声で謝る)
「さっきはごめんね増田ちゃん。でも増田ちゃんが機嫌悪そうだから母さんもいらいらしちゃったの。ほんとにごめんね」
はあ?私が理不尽に怒鳴り散らされ恐怖したのは、私が、しかも何か道理に背いたことをやったとかいうんじゃなくて従順そうでない態度が原因ということなの?
「お前はずっと母さんと一緒にいるんだ。母さんはお前がいなくちゃ駄目なんだよ」
この時この言葉を思い出して、ぞっとした。
父が私の頼りがいをほめたのではなく、厄介な人間性の配偶者の機嫌取りを娘の私に擦り付けようと、私に言い含めていたのだと思った。
父は子供のころからアルバイトをさせられ、稼いだ金は食費や親に気に入られていた父の兄の進学費用に充てられていたという。父にとって子供が親に「運用」されることは自分も通ってきた普通のことであり、それを子供がつべこべいうことなど考えられないのかもしれない。
「お前はずっと母さんと一緒にいるんだ。母さんはお前がいなくちゃ駄目なんだよ」
私は、父が私にかけようとした呪いを破るべく、極力で実家と連絡を取らないようにしている。
「父の日にも誕生日にも何もなかったわね。自分のことで精いっぱいなのかしら?」
ああ母さん、私を縛るために父さんを利用するの?父さんは母さんを縛って自分が安泰でいられるように私を縛ろうとしたよ。あなたたち本当は似たもの夫婦だね。