何時間か後には死んでいるという事を淡々と説明した男は、その続きでその後に死体が司法解剖されるという事を話し始めた。もちろん医者には解剖は必須の授業なので自殺が司法解剖の対象になる、という事は当然の知識だったのだろう。でも自分がどんな風に解剖されてゆくのかという事を聴かされる側にはなかなか酷いものだった。
そしてその話の中で、突然「ここで死ぬと、僕を教えてくれている教授が僕の解剖をする事になるな。」という言葉が出てきた。「お嫌だろうな。少し離れた所で死ぬことにしよう。その県の先生にはもうしわけないけど僕を直接教えたわけじゃないから。」と言葉が続いた。
その男は、ひとりで話し続けていた。「少し標高の高い所に行って、マフラーが雪に埋まる様に車を止めるね。そうすると一酸化炭素中毒で死ねるから。長く苦しまなくていいし。」
そんな風に、私は自分の身体が切り刻まれるおぞましい話をずっと聞かされた。そして話はその時妊娠していた私のおなかの子供にも及んだ。
「そうか、おなかの子どもも同じ状態で死んでいるんだな。いっしょに。」
無感覚だった私は、その言葉に激怒したのだと思う。身じろぎせずにただ座っていた私は、膝の上に置いていたバッグを掴み、運転していた男を全力で殴りつけた。ハンドル操作がぶれて、ガードレールに衝突しそうなほど猛烈に。
怒りは私に叫ばせた。「そんな事を考える力があるなら、警察にいってちょうだい。」
私はその男が何をしているのか、既にその数年前に知っていたので、目の前で女に刃物を振り回して脅されたり、部屋をめちゃくちゃに荒らされたりというショックから抜け出すと、当然なのだけれど反動で猛烈に怒りがこみあげていた。