2015-03-11

ケータイ

昨日病院に行く用があったので、姫路駅まで行くことにした。


空は曇っていた。私は傘を持って

出かけるべきかと思ったのだけれど、

姫路駅ジュンク堂書店で本を買うと荷物が

増えてしまうために遠慮することにした。


姫路駅まではバスを利用する必要がある。私はその日 8 時 10 分に

私の家から一番近いところにある停留所から出発するバスを待っていた。

待っていたのは私の他にもう一人、ピンク色のTシャツジーンズ

鮮やかで結構胸も大きい可愛い女の子。赤く色づいた髪を

シルカットにしていてそれがとても良く似合っている。


ちょっと運動部男の子っぽいボーイッシュな所が魅力的だ。

彼女は耳に何かを当てて彼氏と思しき人間と喋っているようだった。

形状からしてガラケーだろうか。そう言えば最近はまたガラケー出荷台数

増えつつあるらしいな……そう思いながらバスを待っていた。


バスは予定されていた時間きっちりに到着した。

私とその女の子姫路行きのバスに乗る。先にバスに乗ったのは彼女の方で、

私はすぐ後部の座席に座ったのだけど彼女ケータイを離そうとしない。

バスの中ではマナーモードに切り替えた上で通話はご遠慮下さいという

放送が流れているのにもかかわらず……。長引くなら注意しなければならない。


バスは発車した。がくんと小さくバスが揺れて、徐々にスピード

上げていくと窓から見える田園の風景が後ろになびいていく。

川べりを通過すると川を挟んだ向こう側に立っている喬木が

風を受けて少し揺れているのに気がついた。曇り空のせいか

日が当たらないので黒く染まってしまったように見える喬木は、

イギリスの田園風景にむしろ似ている。


ふと、カーブを曲がる時に彼女は手に持っていたもの

落とした。私のところまで転がってきたのでそれを拾う。


それはサザエだった。


訝しく思う私に向かって彼女は言った。


ごめんなさい。


私は言った。バスの中ではケータイご法度ですよ。


分かりました。


そしてそのサザエ彼女は鞄の中にしまって言った。


これ、彼氏専用のケータイなんです。彼氏は去年の冬に海で溺れて

死んじゃいました。これでないと彼氏と連絡が取れないんです。


そして彼女は、再び前を向いた。

泣いているように見えたが気のせいだったのかもしれない。


私は駅前まで買い物に行き、沢木耕太郎川端康成

文庫本を何冊か買った。充実した一日だったと言えるだろう。

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