2014-12-02

みんな昔は精子だった

キーボードを叩く手を止めてオフィス内を見回す。

みんな忙しそうに仕事をしている。PCと睨めっこする若手社員電話対応に追われる女性社員、部下の仕事ぶりを見つめる年配社員、窓ガラスをせっせと拭く清掃員のおばさん。昨日の雨から打ってかわってうららかな陽気の今日は、心なしかみんな生き生きとして見える。

あそこの彼も、むこうの彼女も、みんな元は精子卵子との出会いからまれたのだなあ、と、おれは突然へんてこな感慨にひたった。

女の子はX精子男の子はY精子が、それぞれ卵子と一体となることにより、はじめてこの世に生を受けるのだ。男の子のY精子くんは動きが敏捷で仲間も多い。女の子のX精子ちゃんは動きは遅いけれど体が丈夫で長生きする。そんな特徴をもった精子たちが、己の天性を生かし、数億のライバルとの競争に打ち勝って卵子と結合する権利を得、いま、こうして大きくなり、仕事に励んでいる。

ああ、なんだか不思議だなあ。あんなに小さかったのに、一生懸命動いて勝利して、ついにはこんなに大きくなって、かいがいしく働いているなんて、これを感動的といわずに何と言おう。

精子界の競争に勝った私たちは、まぎれもない「選ばれし者」であり、選ばれし者が集まったこの世はエリート社会であると言える。そんな社会は世知辛くもあるけれども、考えてみれば、あそこの頑固な社長だって、勝気な女上司だって、もとはといえば単なる精子だったのだ。可愛くてちっちゃな精子くんや精子ちゃんだったのだ。

くすっと笑い、くだらねえことを考えたと思いつつも、なぜか急に自信が沸いてきた俺は、キーボードに指を置き、昼休憩へ向けて仕事を再開した。

  • この手の文章ではせっかく選ばれた精子なのに俺はニートみたいなのが昔流行ってたが、 ごく普通のオフィスの光景だとなかなか面白い

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