ためしに、一人のうら若い女性を観察すると、清らかに垂れ下がるロングの黒髪、きゃしゃな胴とは不釣合いの豊かな乳房、細くまっ白な美脚が、うるわしいシルエットを形づくり、見る者の目をくぎ付けにしてやまない。
これほど美しい娘が世の中にあるものかと信じられない気持にもなり、ついつい凝視してしまうけれど、あんまり眺めていると変態になってしまうから、そこは理性を働かせて目をそらすよう努める。
そう思って顔を上げると、いつのまにか目前には美女の後ろ姿があった。
しとしとと降り注ぐ雨の中、傘をさして淑やかに歩を運ぶ彼女は、淡い茶色に染めたショートヘアを可愛らしくなびかせ、小ざっぱりとした服装から、おとなの女性特有の優雅なオーラを存分に漂わせている。
気を失いそうになるほどの上品な香りが鼻から全身を貫いて、ともすると後ろから抱きつきそうになるけれども、やはり自分が人間であることを言い聞かせて我慢する。
うしろからでは彼女の顔は見えないし、乳の大きさもわからない。
けれども、それがむしろ好いのだ。
この人は世にも不思議な天使で、目鼻立ちはくっきり、豊満な胸はしゃんと主張し、ほどよく引締まるウエストが色っぽいくびれを演出している。
きっとそうなんだと信じた時に、私たちは言い知れぬ幸福を感じるのではなかろうか。
道はまもなく曲がり角に差しかかる。
彼女を天使のままにしておくのも手だが、正面から拝めないのを惜しみ、あえて行動を起こすのも悪くはあるまい。
さりげなく早足になり、天使を追い越したら、満を持して一瞥してみる。
なーんだ、おばさんか。
すこし残念がって、もういちど前を向く。
それもまた、好いではないか。