私の頭はおかしいって自覚はあるものの、類なんてみなすな、友として呼んでないという案件に出会ってちょっと傷心気味だ。
一昨日の夜九時過ぎに、玄関チャイムが鳴った。こんな夜分に、と疑問に思いながら受話器を取ると、
「201号室の方ですか?」———と聞かれた。
「いえ、204号室です。」———がちゃり、と反射的に受話器を置いてしまった。
自分の名前も名乗らず、私の名前も聞かない。これは宗教家か、もっとよくない人だと直感が告げていた。
その瞬間、荒れ狂ったように目の前の受話器が鳴り出した。十回を数える頃、後ろ手に取った携帯を握りしめて再び受話器を取った。
「201号室の方ですか?」———男性の声だ。
「どのようなご用件ですか?」
「201号室の方ですか?」
「どのようなご用件ですか?」
「201号室の方ですか?」
「どのようなご用件ですか?」
「201号室の方ですか?」
「どのようなご用件ですか?」
「201号室の方ですか?」———比喩じゃない。本当にこの回数分問答を繰り返したのだ。
「どのようなご用件ですか?」
「私......NHKの」———とっさにまた、受話器を切ってしまった。
NHKだけ、大きく聞こえた。その他、何を言っていたのか、よくわからない。
一応、受信料は毎月口座引き落としで納めている。
また、受話器が鳴り出した。何回も何回も。
玄関のチェーンロックが掛かっていることが不安だったが、玄関越しに立つことの方がもっと不安で、
結局嵐が去るまで、部屋で固くなっていた。携帯の存在は、いつの間にか寝付いていた床から起きるまで忘れていた。
今日、体調不良を理由に会社を休んだ。警察の方には、お話を伺っていただいた。
何もかもが済んで、ぐったりとなった午後、土日の天候不良で溜まった洗濯物が気になって、それでもまだ、ベランダすら顔を出せない。
実家の浴室乾燥機が急に恋しくなった。ゴミの日も逃して、廊下が散々なことになってる。それが嫌で、明日も多分外に出ないだろう。
明後日は出勤できるか。