最初ははてなか小町辺りの記事がネタになってるのかとも思ったけれど、ちょっと調べてみても該当するっぽいのは見あたらなかった。
おそらくvipに9/24に立てられたこのスレッドが発端なんだろうけれど、このときはまだ普通の雑談スレだったみたい。vip+には8/15に立てられた同趣旨のもあるけれど盛り上がらないまま落ちている感じ。
そして同じく9/24、ν速に立ったスレはそれなりに盛り上がって、ここで例のAAが誕生している。これが凄い速度で広まっていったのは、少なくとも一部の、社会人ぐらいの年齢層の男性にはマジックテープ式に対する侮蔑心があったっつーことなんだろうかね。
一種のステータスシンボルなのかな。
子供用の靴がマジックテープを採用したものがほとんどだからじゃない。イメージ的にガキ臭いという。
だから何の理由も無くカネをタダで受け取ったら良い事は1つも無い。
タダで貰ったらタダで”使われる”だけだ。
「何も言うな!オマエはそこでじっとしていろ!」と強気で喰ってかかってくるに決まっている。
ベーシックインカムが恐ろしくて仕方が無いと思う理由だ。
あ。ヤベぇ。12000円まだ受け取って無ぇや。どうしようかな。
〜T.H.
29日未明、岡田外務大臣削除要請事件に関連してVIPPERなどによる運営への凸が発生し、2ちゃんねるで超大規模規制が発生した模様です。
nifty、plala、so-net、softbank(一部除く)、ocn(一部地域除く)等大手プロバイダーの大多数が全板で規制され、期間は現在のところ約2週間の見込み。
何でも良いよ。音楽でも服でも映画でもマンガでもアニメでもゲームでも。
歴史年表を並べてみると肌で感じられる。
結局「受け手側」がやってる事は全然変わってないの。
「これ面白いなぁ」ってのを伝え聞いたらつまんでみて、気に入ったらディグり、
ついでにそれが他の人にも伝わって行くってだけ。
1つのブームが一通り飛び火するのに昔は10年くらいかかった。
イギリスで流行した奴が2年後に形を変えてアメリカで流行ったりだとか。
だからウェブってのは結構恐ろしい物で、
今「ブーム」を作ろうと思ったら茶番劇を繰り返すか、
それが嫌だったら「売れるうちに売れるだけ売る」でも保って1年だなこれも。
〜T.H.
その「Vampire Kisses: Blood Relatives: 3」ってタイトルの人気がすごいっていうより、TPOPの他の日本の漫画タイトルが酷すぎるから相対的に人気があがっただけだよ。全米売上げトップはいまだに『NARUTO』とか『Bleach』とか『ヴァンパイア騎士』とか集英社(米国Viz Media)のガチな少年・少女漫画タイトル。TPOPは米市場でいえばすでに業界3、4番手の小粒だよ。
TPOPは全盛期は講談社などの大手出版社の人気漫画のライセンスを扱ってもうけてたけど、アメリカの漫画市場が大きくなったのと日本のそれがカツカツになってきたから講談社とかも自前で米国進出するようになって、人気タイトルのライセンスを全部打ち切ったんだよ。だから自前のタイトルや韓国や中国の漫画とかで勝負するしかなくなっただけ。去年あたりじゃ社員の半分近くを一気にリストラしてたし。
まぁ長い目でみれば自前のコンテンツをこつこつ育てていったほうが将来性はあるから、5年10年したら復活するかもだけど。それまでもつかな?
普段はそれなりに楽しく生きてるつもりだけど、たまに世界が怖くなる
周りがみんな敵なんじゃないかって、唐突に思えてきて、凄く寂しくなる
誰かの温もりを求めてここに着ちゃったけど、ここに来てどうするんだろう自分
匿名の場に温もりなんて期待してなかったけど、それでもそれが感じられるからここに書いてるのかな
自分がわかんないや
すごい、すごいかみ合ってなくて笑える。
腐女子が楽しんでるBLはファンタジーだってなんでわかんないのかなぁ。
オタクが楽しんでる2次元の女の子たちがファンタジーな様にさ。ファンタジー。妄想。
ギャルゲーとかやって「もっと現実の恋愛に近づけるべきだ!」言ってるのとかと同じだよ、それ。
「ちょっとはネタにされてる女の子のことも考えろよ」ってか?ばかじゃないのw
というか、現実に即したなんちゃらとか救いのないなんちゃらってのはただの1ジャンルにしかすぎないでしょ。
高度も何もないっての。ただのエンターテイメントだよ?
酒が原因なら優しさのまえに反省したほうが良い。
こういうひとがうぜーから腐女子は昔から表に出たくなかったんだっつーの。
まったく的を射ていないし、将来的にもあなたとわたしはこの話題についておしゃべりできないと思う。
もう明日からBLのことは忘れて暮らしてほしい。頼むから。
元増田の言うとおり、本来そこまで議論する内容じゃない気がするけど。
世の中、大概の男は美人が好きだ。
目の前で彼女が他の男とヤってるのを見れば、気分が悪くなる男は多いだろう。
人間(というか男?)、余計な想像力があるもので、目の前で彼女が「もう、あなたしか見えない」的なセリフを吐こうが、勝手に前の男との光景を無駄に生々しく幻視してしまう。やってるときに、自分が撫でようとしているところを、毛深い他の男の手が撫でるの幻視してしまったりとか。
そーなると、がっかり、というかなんというか。ぞわっとするというか。
等価な例ではないけど、女側なら、今自分を見てにこにこしゃべってる彼氏を5メートル先に移動させて、その隣に、彼氏の方を向いて彼氏と同じようににこにこ笑っている前彼女がいる図を考えて、「好きだって言ってくれるけど、前の彼女にも同じ様に言ってたんじゃんか」とつぶやく自分を想像すれば、がっかり、のところは何となく理解できるんじゃなかろうか。
結局、生理的嫌悪自体はどうしようもないわけで、処女がいいと言うこと自体は構わないと思う。というか、仕方ない。
まあ、男女交際なんか義務じゃないんだし、自分のタイプの人を選べばいい。
一般男は普通そうしてる。
が、処女厨が気持ちが悪いのは、ここで、理屈を付けて「男が処女好きなのは”正しい”」「非処女産廃」とか言い出すから。
個人的に、この論理って、「食べないと死ぬのだから、鶏肉を食べるのは”正しい”」という主張に近いと思う。
鳥自身は、普通の鳥なら殺されて喜ぶ変態ではない(と思う)。生理的に(感情的に)殺されることに対する嫌悪がある。
人も同じ。何らかの理屈、倫理で間違っているとされたところで、生理的な(感情的な)飢え死に対する嫌悪は消えない。
この現実に対して、正しい正しくない、と言う議論は的外れ。間違いなら論外だし、正しかったところで、鳥がじゃあ仕方ないですね譲りましょう、とは言わない(言いたくない)し、人に食べられるのが正しいので食われるの快感とか変態に目覚めることもない。正しさでは相手の感情を塗りつぶせない。
結局、力の強い人間が鳥を食べて生きている。鳥は人を呪いつつ殺されるしかない。
そーいうものだから仕方ない、としか言いようがない。だって、こっちも死にたくないもの。
この世は、鳥も人も死なずに暮らせる完全な世界ではない。
処女非処女でも同じで、女にも男同様に性欲があって(同じ人間なんだから当たり前の気もする)、イケメンとベタベタしたい(男なら、可愛い子とヤりたい)とか思ってる訳で、正しい正しくないでは、役に立たない。処女の方がと言う男の感情も、逆ハーレム万歳な女の感情もどちらも塗りつぶせない。
ここでどう考えれば、他者である女が「1人の男しか知らないの、快感」と感じるという、”正しい”処女厨に感情を塗りつぶされると言う結論になるんだよ。自分はわがまま言い放題、相手のわがままは倫理を使って悪として弾圧して、その挙げ句、「オレのわがままは正しいからわがままじゃない」と、謎の論理で自己肯定。何でこの人、わがままをわがままと認識してないんだろう。そりゃあ、キモがられるよ。(というか、”正しく”ないと自分の感情を肯定できないのか?ずいぶん低い自尊心だな。)
ちなみに。貞操観念とやらに抑圧されまくったいい娘ちゃんというのは、それなりにいる。が、結果はまさに
http://anond.hatelabo.jp/20091027030712
と言うやつだと思う。
その踏み切りは山の入り口にあって、その線路を越えると生い茂る木々の間を進む坂道に道は繋がっていた。辺りに家や建物は見当たらなく、人気のない細い道を進んだ末に、山と裾野をとを分断するようにして無機質に佇んでいた。
一体何の理由があってここまで来なくてはならなかったのか、廃線と紛う線路を目にした瞬間に忘れてしまったのだけれど、私はその踏切の真ん中に一頭の羊を見つけていた。
羊は、例えば山羊とか鹿みたいにほっそりしていたり、大きく悪魔的に曲がった角を持っていたわけではなく、もこもことした乳白色の毛並みや、じっと私の顔を凝視しつつも咀嚼することを止めない泰然たる様にしてみてもまさしく羊そのものであって、いやいや待てよ、どうして東北の人気もなければ人家もなく、ましてや畜舎があるわけでもない山間に羊なんぞがいるのだ、という疑問すら吹き飛ばしてしまうほどに、間違いなく羊そのものであった。
私はしばらくの間羊と睨み合っていたのだと思う。最中、辺りには誰こなかったし、風ひとつ吹きはしなかった。ただもぐもぐと続く咀嚼と、固まったままの私の眼球とが対峙しているだけだった。
やがて、つうっと羊が前を向いた。そして、そのまま線路を歩き出す。足取りは思いのほかしっかりしていて、とてもこの地に馴染んでいるように見えた。そんなことはありえないと思うのだけれど、どうやら羊はこの辺りに長らく住んでいるようだった。
私は麓の高校に通っているけれど、三階の窓からいつでも見ることのできるこの山間に羊が住み着いているだなんて話は一度も聞いたことがなかった。おそらく、噂にすらなっていないのだろう。羊は誰にも知られることなく、それでいて確かにこの地に根を下ろしているようだった。
呆然と歩き始めた羊を見つめていた私を、ふいに立ち止まったもこもことした乳白色の塊は振り返る。じいっと見つめられる眼差しには何かしらの意図が含まれているような気がしたけれども、生憎私は気が狂うほどに動物が好きと言う訳でも、羊の言葉が分かる隠し能力を持っているわけでもなかったので、一体全体羊がなにを思って、どうして私に伝えようとしているのかが分からなかった。
けれども、何となくだけれど、ついていけばいいような気はした。きゅぴんと電撃が迸るようにして脳内に言葉が、煌々とネオンを灯し始めたのだ。
羊は、私をどこかに導こうとしている。
予兆めいた直感は、けれど一度頭の中で腰を吸えると、俄然とそれらしい輝きを放つようになり、他の候補、例えば羊がさっさと私に消えて欲しいと思っているとか、私にでんぐり返しをして欲しいと思っているなどということをことごとく眩ましてしまった。
ごくりと生唾を飲み込んでから、私は一歩その場から踏み出してみる。踏み切りの真ん中で進路を羊の方へと定めて、ショルダーバッグの帯をぎゅっと握り締めた。
様子をじっくりと観察していた羊は、私が背後に立ち止まったことを確認すると再び歩き出した。ざくざくと、石を刻む音が再開する。一度大きく息を吸い込んでから前を向いた私は、意を決して足音を重ねることにした。
羊はもそもそと、遅くもなく早くもない歩調でずんずん線路を進んでいった。まるで、私の歩調に合わせているみたいだった。どれだけ歩いても羊との距離は縮まらず、また決定的に離れることもなかった。
沈黙以上に冷たく張り詰めた静寂が線路の上を覆っていた。そこで許されている音は足音だけで、ぎりぎり呼吸をする音が認められているぐらいだった。呼び起こされたへんてこな緊張感に、私はいつの間にか歩くという行為だけに没頭せざるを余儀なくされていた。
ざくざくと石を刻みながら、私は段々とどうしてこの線路の前にやって来たのかを思い出し始めていた。
帰り道。友達を分かれた後歩いていた住宅路の角に、するりと移動した後姿を見たような気がしたせいだった。消え去る影が、一週間前忽然と姿を消した家猫の背中に非常に似通っていたのだ。名前を呼びながら、いつの間にか私はその後姿を追い始めていた。
角を折れるたびに、小さな後姿はもうひとつ先の角を曲がっていた。右に左に。途中から肩で息をして、私は懸命に後を追っていた。待って、まださよならも言えてないのに、急にいなくなるなんて酷いよ、といろいろなことを考えながら。
そして、あの線路のぶつかったのだった。そこに、目の前の羊がいた。
ふと辺りを見渡す。知らない間に景色が一変していた。左手に見えていたはずの町並みは消え去り、左手にあったはずの藪もなくなっていた。
私はどこまでも続く杉林の中を歩いていた。しっとりと霧が立ち込めていて、先を行く羊の姿はおぼろげに曖昧になっていた。
更にもう少し歩いていると、やがて見知らぬ無人駅に辿り着いた。立ち止まり、呆然と見上げる私の背後から、プオープオーと汽笛の音がし始める。慌てて線路から無人駅へとよじ登った私は、滑り込んできたSLを前にして口に出すべき言葉が見つからなかった。
車窓から、様々な動物達の姿が見えた。例えばそれはイヌであり、ニワトリであり、リスであって、ワニでもあった。あるいはゾウであり、キリンであり、ライオンであり、クジラでもあった。サルも、キンギョも、ヘビもいたのかもしれない。ありとあらゆる動物が乗り込んだSLは、けれどもその形状を変容させることなく、全ての動物を受け入れていた。
というのも、動物達は一様にして似たような大きさにまとまっていたのだった。人間で言うところの大人ぐらいの大きさ。また、ある動物は眼鏡をかけて新聞を読んでいて、ある動物は煙草をふかしていて、ある動物はウォークマンを聞いていた。人が動物になっただけで、車内の様子は一般的な汽車のそれと寸分の変わりがないように見えた。
「えー、米田ー、米田ー。停まりました駅は、米田でございます。まもなく出発いたしますのでー、お乗りのお客様は乗り遅れないようお願いいたします」
らしい抑揚をつけたアナウンスが構内に谺する。見れば、青い制服を着込み頭には帽子を被った羊が、拡声器を使って無人駅を歩いていた。
様子から、羊が駅長なのらしいことが分かった。代わる代わるやってくる乗客から切符を受け取り、ひとつひとつ丁寧に切ってはSLに乗せていく姿は、なるほど、結構様になっているように見えた。
いまだ呆然と、なにをどうしたらいいのかすら分からないまま、私は一連の出来事を見守り続けていた。これは、一体なんなのだろう。純粋な混乱の最中にあった私は、その瞬間に一気に神経を一点に集中させた。
SLに乗り込む乗客の中に、いなくなった家猫の姿を確認してしまったのだ。
「ミーコ!」
思わず叫んでいた。駅長の羊から切符を返してもらったミーコは、そっと困ったような表情で私のことを見返してきた。
眼差しは、多分の物事を語ってきていて。
そっと視線が外れ、静かにSLに乗り込んだミーコの姿に、私はもうかける言葉を見失ってしまっていた。
汽笛が高らかに蒸気を吹き上げる。
「えー、間もなく、間もなく、新町行き米田発の汽車が発車いたします。危険ですので、白線の内にてお見送りください」
アナウンスが終了すると、SLはごとん、ごとんと動き始めた。私は駆け出して、窓からミーコの姿を探し始めた。けれど、座席一杯にひしめきあった動物の中からミーコの姿を探すことは容易なことではなかった。まだ速度の出ていないうちに、ひとつでの多くの窓から探そうと、私の足は駆けていく。
けれども、やがてSLはスピードを増して、徐々に私が遅れていってしまう。
「ミーコ。ミーコ!」
呼び声だけが、虚しく響くばかりだった。SLは駅を走り去っていく。後姿を、私は込み上げる悲しみと共にいつまでも見続けていた。
その後、どうやってあの米田駅から帰ってきたのかは分からないのだけれど、私はいつの間にか線路を戻ってきていて、再びあの踏み切りの場所にまで辿り着いていた。
夜は更けていて、辺りは真っ暗だった。風は冷たくて、全身が氷付けになったみたいに寒かった。早くお風呂に入りたい。それからミーコの写真を抱いて、ぐっすりと眠りたかった。泥のように、あるいは死人のように。睡眠は死界に一番近づける状態なのだ、夢の中でならミーコに会えるのだと信じていたかった。
踏み切りから細い道へと進路を変える。町へと降りていく道をしばらく歩いてから、そうっと背後を振り返ってみた。
りんりんと鈴虫が鳴く闇夜に、月光だけが照らし出す踏み切りは少しだけ幻想的に映っていた。
再び踏み切りから視線を前に向けた瞬間、私は確かに踏み切りの中央に羊の姿を見ていた。
プオープオーと響いた汽笛は、微かに夜風を震わせていた。
御年28歳。
数少ない親友の一人。
さすが大手電機メーカーは太っ腹と思っていたが、どうも事情は違い、深夜残業続きで潰れかけたエース級をとりあえず安全なところへ飛ばそうという転勤だった。
それで6年も付き合った彼女と結婚しようという話になったらしい。
まあ、世の中どこも大変だよね、ため息をつく。
背が高く、まじめで、さわやかで、けっこう純真で、笑顔を絶やさず、部長をやっていたリーダー格で、人なつこさもあって、男から見てもまぶしいやつなのだ。どんな子と付き合っていたのかと新婦を見ると、まったくぱっとしない子でびっくりする。
そう言うと女性諸君に怒られそうなので逆に考えてほしい。
仲間内で一番モテるだろうと思っていた女性の旦那が、まったくどこがいいのか分からないぱっとしない男の子なのだ。
さすがになんでと聞くのは失礼だが、ほどなくその理由が分かった。
にこにこと笑顔で挨拶に回る新婦のところへ、遅れて新郎(つまり親友)がやってくる。
それで仲間にからかわれる新郎を見て、新婦がとびきりの笑顔を向けた。
その瞬間の圧倒的なまぶしさは、今でも忘れられない。
眼に焼き付くような、輝くような笑顔で、正直あんな笑顔を見るのは初めてだった。
全面的に旦那を信頼し、純真な子供のようなひたむきさを、ぶつける。
ああ、そうか。
どうやってもこれは落ちる。
女性の魅力というのは、実際のところ姿形ではなく、その感情をどれだけ素直に相手にぶつけることができるか、なのだなあと思ったのだ。その中で笑顔がもっとも強烈なのは言うまでもなく、女性の笑顔を守るのは、結局のところそのお相手の仕事なのだと、痛感した。
残業続きで、どうも仲違いをしていた時期があったらしい。
それに新婦は泣いた。
「なに、別れたんだって?」
「まあ、仕事の忙しさもあって上手くいかなくなった。もういいよ。疲れたよ」
「おまえが悪いだろう? 絶対そうだ」
まあ、その通り。
おまえは偉い。
別れた彼女と出会ったのは職場で、社内で孤立していたところを偶然見つけた。
はかなげで、弱々しく、これは危ないと思わせる女の子に弱いという脆弱性をぼくは持っている。
いろいろ聞くと、いくつかの問題があり、それを解決しているうちに、その子に飛びつかれる。どうもホワイトナイトかなんかと思われたらしい。誰かの問題を解決することはしばしばやるのだが、たいていは、ぼくがそれを何となくほっとけないからやっているだけ、ということに気づいて、ありがとうと言われて、終了となる。
ただ、その中には一定数、飛びかかってくる子がいて、その中でも抜群に口説き落とし方が上手かったのが彼女だったのだ。
全力で落としに行った。
と、だいぶたってから言われたのだが、たいていの奥手な男性は、あなたを信頼していますと身を投げ出されると、おろおろとその身をキャッチしなければならないと、慌てているうちに恋に落ちているものなのだ。
守らなければと思ってしまうのだ。
これはある意味必勝形かもしれない。
彼女は、腰まであった髪を肩まで切って、茶に染めてぼくの前に立った。
正直言うと、何でそこまでするのだろうと思ったのだけど、社内では、いろいろはなしをされて、もちろんぼくのせいということになっている。
正直な感想聞かれたので、正直に答えた。
「癖毛でライオンみたい」
付き合ううちに、徐々に本性が現れてきて、気性の荒さが表に出てくる。
そうなってくると、猛獣使いになっていく気分。はかなさの中から、その現れてくる激しい感情を拾っていく。心がヌードになっていく。それが、ものすごいたくさんの色彩を浴びるようで、幸せを感じる。
たぶん、多くの人は、モネのような落ち着いて明るく静かな色調を好むと思う。
だけど、明るく、激しく、落差の大きい、コンストラストの豊かなエネルギッシュな色調も刺激的なのだ。
様々な感情をぶつけられるたびに、惚れていく。
彼女とのつきあいはそんな感じだった。
彼女と付き合って、1年ぐらいがたぶんピークだった。
そのあたりの彼女の表情は当然に輝いていた。
あまりにもまぶしくて、それから2年も経った別れ際には想像できないほど。
そんだけ荒廃したんだろうなと、今になって思う。
どうしたら、その輝くような表情を守れるのだろうって。
姿形じゃないんだよね。
どんだけ、素直な感情の放射を受けれるか、うそなしに、彼女とつきあえるかなんだよね、と思う。みにくいと言われたことはないけれども、やはり決定的に対立していた。だめなものは、しょせんだめ。それを痛感したのは、痛い。
とにかく、その辺の危機管理だけは買われていたようで、女友達経由で彼女から大量に流れてくる。
なんでも、学生時代に結婚した30代の彼氏と別れたいという内容。
なんでも、離婚書を提出したら、餓死するとか食を絶っているとかそういう内容。
もうね、こういう案件は、預かり主が冷酷になる以外にない。
死ねばいいじゃん。全然、おれ関係ないから。
おまえが死んでもおれは痛くもかゆくもない。
だからなに?
情ないから。
と、完全に冷酷な、完璧に冷酷で、なんの容赦もしない実に冷淡きわまる人に状況のハンドリングが渡ったことを示すのが最善。法は冷淡だけど、救済に至るルールを示している。
ルールを守るように。
彼女から言わせれば、ぱっとしない子らしい。
たしかに、社内でもぱっとしない子だった。
だけど、その二人は前途有望な感じらしく、二人ですんだ。
彼女が言う。
もうさ、なんか就業時間が過ぎると、わくわくしているのがわかるの。もうはやくいけっていうか、彼氏がいないいるとかの問題じゃなくて、頬とか照っちゃって。ぼくもあなたとつきあい始めの頃はそうだったんだろうなあと思ってしまうよ。
今となっては厳しい言葉だ。
ぼくがずっと好きだった母はいつも通りに笑っている。
マザコン気味なぼくは母の笑顔を受けて育ったけれども、その陰には父の献身があったんだなと、いまさらに気づいて、ショックを受ける。大嫌いなのに、父は。だけど、そのすごさは、分かった。
結局、笑顔の理由を作れるやつが最強なのさ。
相手が寝返りうつ度に目が覚めて居心地が非常に悪い