スーツを着ていた。同じ就活生だろうか。真っ白い肌と黒髪が印象的だった。
あんな子と付き合ってみたい。今まで、出会いすらなかったぞ。
アドレスを聞こうかと思って迷っていた。
すると急に電車が激しく揺れた。
ブーケトスのブーケを待ち構えていた女たちのように、
俺はボールペンを拾いにいった。
「落としましたよ。」
「ありがとうございます。」
彼女はまるで「貴重なお話ありがとうございます。」とでも言うように、
またも行儀よくこちらに微笑んだ。
キレの良すぎる態度と声に、少しびっくりした。
彼女はさっきの「ありがとうございます。」とは打って変わって、
「ほんとぉー?」
とニカッ、と笑ったあと、
ドサッ、と俺の隣に座り、
緊張の糸が切れたようにべらべらとぐだぐだと喋り始めた。
いきなり、ギャルのような鼻にかかった声に変わってしまったことにびっくりした。
化粧もまつげも異常に濃かった。
髪は近くで見ると、不自然なまでに真っ黒だった。
「私ねー地方から就職活動に来てるのー。」「そうなんですか。」
「山手線の車内の画面にびっくりしちゃってねー、」「ああーそうですよね、」
「・・・新宿駅なんかー、いっぱい人がいて、あたしの街でいちばんおおきい××駅なんかとくらべたら・・・・」
「・・・・でもっ、東京で就職したい!っておもってるからー、・・・・・・」
あたしのようなバカがとれるのか、
どうにかしたい、ということ・・・・
一通り話が済むと、「あ、もうそろそろ私、このへんでー。」と言って、彼女が席を立った。
アドレスを教えてほしいんです。と言おうと思っていたのに、タイミングを逃した。
話し終わって、しばらくぼーっとして、気付いた。
「ありがとうございます」と言われた時は、あんなに清楚で上品な子に見えたのに、
プライベートの会話をしている時の彼女は、明らかに就活生のコスプレをしたギャルだった。
しかし遠目で見ていたときは、一目惚れするだけの魅力があった。
黒髪・ナチュラルメイクで清楚にキメた就活生の中に、彼女のようなギャルはいくらでもいるのだろう。
そして就活が終わった暁には、また髪を脱色し、カラーコンタクトを入れて、ギャルに戻っていくのだろう。
女は演じる性だ、という誰かの言葉を思い出した。
きーもーいーーーーーー 妄想でもやめてくれないかな?勝手に自分だけで妄想してオナニーしてろよ。日記じゃないだろ、それは。