向こうにその気がないのは明らかだったけど卒業式の日に気持ちだけ伝えたのは覚えている。
俺は卒業したら県外に、向こうは県内に残ることが決まっていたからだ。
俺は都内に住む30代の普通のサラリーマンで、妻と子供がいる。
妻への愛情は出会った頃のように熱いものではなくなっているが、不満というわけではない。
仮に好きな人ができたとしても子どものことを考えたらそんなリスクは取れない。
夢の中で、彼女は泣いていた。俺には、彼女を抱いた記憶がある。
「あなたには家庭があるのに好きになってしまうなんて。どうしたらいいの?」
彼女は目に涙を浮かべながら俺を問い詰めた。妻子持ちという設定は夢の中でも活きていたようだ。
俺は家庭があったことを思い出した。自分の罪深さを思い、どうケジメをつけるかを考えた。
しかし答えは出てこない。夢の中独特の模糊とした思考が頭を巡る。
彼女を自分のものにしたい、しかし俺には家庭がある。どこで区切りをつける?
区切りとは?彼女に対して?それとも家庭に対して?ジレンマが俺を襲う。
ふと気がつくと、俺は自分のベッドで寝ていた。隣には妻がいる。
喉が異様に乾いていた。外はまだ暗い。時計を見ると午前3時を指している。
起きて台所に行き、水を飲む。
また寝床に入るも、その日は彼女が頭の中から出ていかず、再び寝付くことはできなかった。
誰にも言うことができないので、せめてここで。