2023-11-21

こう寒いおでんが食べたくなるね

同僚が帰り際にそう言うのでおでんの口になり、帰りに一杯やる運びとなった。

会社を出て少し歩き、走行中のおでん屋台を見かけると手を上げて止めた。

おでん屋台は八メートルほど上空で一時停止し、ゆっくり下降してくる。その動きを見つめながら「今日は冷えますな」と同僚。

俺も頷き、会話に集中しようとノイズキャンセリングイヤホンを外すと「みんなも一緒に!せ~の!」というバーチャルアイドル初川ネコの声が巨大なホログラム映像とともに耳へと張り付いた。

おでん屋台は音もなく俺たちの前に着地すると「いらっしゃい」というダミ声を聞かせ、のれんがふわりと自動で捲れた。

俺たちは少し屈んで暖簾を越して二人席に座り、目の前にはぐつぐつと湯気をたぎらせるおでん温泉。それでもまずは熱燗を注文。それからがんもに大根に…あと卵とちくわ

「へい」と大将は威勢良く返事し、回転寿司のようにして容器が俺の前へと回ってくる。中には注文したおでん。同僚も隣で注文し、先に食べろよとウインクするみたいにこちらをみた。お言葉に甘えて食べ始める。まずは大根からだ。箸でつまんで持ち上げると裏面にはカラシが塗りたくってあり、口にいれるとすぐにほどけるように溶けた。人工大根らしい味わい。水々しく弾力性にかけ、味は薄い。最近生の大根は値上げしたと聞いたが本当らしい。気づけば同僚の目の前にも容器があり、いつの間にか注文を終えていたようだ。彼はちくわひとつ平らげ、目が合ったところで熱燗を注ぎ、乾杯した。

大将の後ろでは巨大な初川ネコが踊っており、ホログラムの横顔は笑顔。ここからではコメント枠をちょうど真横から眺めることになるので内容は分からないが、それでも色違いの枠が見えたことでスパチャであることは分かった。

「みんな、ありがと~」

猫なで声のバーチャルアイドルの声とソングを聞きながら、俺たちは熱燗を飲み、おでんを食べ進める。

カラシが少し多かった。

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