なんだったかよく覚えていないが、とても気に入らないことを言われて、俺は母の後ろから襲い掛かって首を絞め、母は崩れ落ちて動かなくなった。
もう十年以上も昔の話だが、俺は正直これを悪いと思わなかった。
もちろん常識ある人々から見ると「非力な母親に対してカッとなって暴力をふるい殺害を試みる少年」というのは意味不明の怪物なのだろうが、俺にとっては何もおかしくはなかったのだ。
これは別に、「俺は悪いことできちゃうんだぜ~w俺キャラ濃すぎウェヒ~w」という話ではなく、
俺の育った家庭ではそういう暴力は普通で、殴ったり蹴ったり刃物を向けたり心中を持ちかけたり寝込みを襲ったり自殺させようとしてみたりといった行為は両親から俺に対して数限りなく行われており、俺はそれを学び取ったので、カッとなってぶっ殺そうとするのは俺にとっては「普通」だったのである。
この世の良識ある人々が常識を母語とするように、そうした暴力は俺にとっての母語であるというワケ。大阪で育つと大阪弁を覚えるし、暴力の蔓延る過程で育つと暴力を覚える。アラビア語圏で育って日本語話者になるのは難しい。
しかし世間では親を殺そうとした息子というのは大変評価が悪く、まるで俺が罪人であるかのように扱われてしまうので、こんな話はできない。そんな、ひどい…。
なお母は余裕で生きていたし、その後ももう一回首を絞めて欲しいとせがむようになるなどヘラヘラしたままで、過去の清算を求める俺の感情に何ら向き合いはしなかった。
昭和末期の中二病って感じで、平成にすらついてこれなかったんだなぁ気の毒