「あの、私があのピアスをあの野郎に渡した理由、興味ありません?」
「いや、全く興味ない。それにあの時聞いたと思うんだが」
「そう言うと思いました。でも、本当はどうだったのか、私が聞いて欲しいんです」
「そうか、じゃあ聞こうか」
「はい、ぜひ。私があの野郎の依頼であなたを支援していたけれど、あの結末は知らされてなかったというのはあのとき言った通りです」
「いいんです、私はあの野郎が大嫌いなので」
「そんなにか」
「そんなにです」
「続きを」
「はい。そもそも私があなたからピアスを預かっていることは、私からあの野郎に言い出したことです」
「そりゃそうだな。他に知ってるヤツはいない」
「私があの野郎にあなたのピアスを渡したのは、もちろんお仕事だからという意味もありましたが、私個人の贖罪?清算?なんて言うんですかね、結果的にあなたを裏切ることになって、あなたに詫びたかった。でも、そんな言葉も言えないだろうから、なるべく誠実でありたかったんです」
「誠実、か」
「そうです。ピアスを渡すことはあなたへの裏切りでしたけど、それでも私の立ち位置を明確にはしてくれます。それがあなたに対してせめてできることだと考えました」
「なるほどね」
「そうですけど、あのときはそれだけでもなかったんです。あなたがあのピアスをあの野郎に見せられてもあの野郎が生きて帰ってきたなら、私はあなたのところへ帰れるって思たんです」
「意味がわからないな。俺がピアスを見ても兄貴を撃たなかったってことは、あんたのことがどうでもよかったってことの証左だと解釈するのが普通だろう」
「どんな」
「あなたが、私のことを心から信じてくれていたということです」
「なっ」
「現にあの野郎は生きて帰ってきて、今あなたと私はこうして病院のお庭でお散歩してます。だとすると、後者の解釈の方が正しかったと思っていいのでは?」