兵隊たちはいつまで戦って、そして勝ったらどうなるのかしら……?
時江の記憶に残る限り、彼女の生まれ育った村のロシア人たちの表情は常に暗く陰気だった。
彼らが笑う顔を見たことがないと言っても過言ではないほどだ。そして彼らは決まってこう言った。
時江にはその意味がよく分からなかったが、とにかく彼らの嘆きは切迫していた。
そのせいだろう、彼らは自分たちの未来を悲観的に捉えていたようだ。
そう考えると、時江は自分が生まれ育った村のロシア人たちを憐れまざるを得なかった。彼らもまた自分たちと同じ苦しみを背負っていたのだと知ったからだ。
時江の心の中で、何かが変わった。
彼女はそれまで見下してきたロシア人たちに対し初めて親近感を覚えたのである。それが時江の初恋の始まりでもあった。
「…なるほど、ロシアに行かれてた時にそんな事が」
時江の話を聞き終えた美和子は神妙な面持ちで肯くと、テーブルの上に置かれたグラスを手に取った。氷は既に溶けかけていて、薄茶色の液体は水っぽくなっていた。
遠藤家を辞した後、二人は喫茶店に入って遅い昼食を取っていた。遠藤の言う通り、駅前にあるこの店はこの辺りで一番賑わっている場所だった。店内の壁にはロシア語で書かれたポスターが何枚も貼られており、そのどれもがロシア軍人募集の広告であった。時江は食事の間中ずっとそれらのポスターを眺めていたが、ふと思いついて口を開いた。
錦糸町はかつてロシアンパブが乱立しており往時はロシア大使館の周辺並みにはロシア人女性がいた事を思い出した。だが今となってはそれも過去の話だ。
美和子は首を傾げ、