まだ土の方が目立つ麦畑を強風が吹き抜けるので、辺りは土埃で霞み、遠くの山の輪郭もぼんやりしている。空もうっすら黄土色。強すぎる風に、車のハンドルが取られるほど。空では時が止まったかのように鳥が浮いている。
農道をのろのろと車を走らせていると、前方からカップルらしき二人組が風にあおられながら歩いてきた。ほとんど身長差のない二人で、特に風が吹き荒れるごとに、わずかに背の低い方が相方の方へ倒れ込み、それを相方が自らもよろけながらなんとか支える。それでも歩みを止めることなくこちらに向かって歩いてくる。
こちらと距離がつまってくると、埃でぼやけていた彼らの姿がはっきりと見えてきたが、二人とも中学か高校生くらいの男子だった。キャーキャーと楽しげ叫びながら歩いているように見えるが、声は全く聴こえてこない。風が全部の音声を吹き飛ばしてしまう。
彼らとすれ違う時、ぎりぎりまで道の端まで車を寄せ、元々徐行だったのを更に速度を落とした。もつれ合うようにして歩いてくる彼らが二人まとめてボンネットに倒れ込んでくるのを回避するためだ。
すれ違う時も、彼らは無声映画のようで、聴こえるのは風の吹き荒ぶ音ばかりだった。窓の外に見える彼らの表情は楽しそうだ。大人には迷惑なだけのこの嵐も、彼らにはただのイベントでしかない模様。